ピロリ菌と胃がんの関係 その3〜ピロリ菌陰性胃がん〜

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ピロリ菌と胃がんの関係 その3〜ピロリ菌陰性胃がん〜

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。

 

今回は、前回のブログに引き続いて、「ピロリ菌陰性胃がん」についてお話します。前回と前々回の内容とあわせて、「胃がんの原因」については説明し尽くすことになります。

 

なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。

 

「ピロリ菌」という原因からみた胃がんの分類

前回までは、胃がんの原因としてピロリ菌が重要なこと、除菌が成功しても、その後一定の頻度で胃がんが発生し得るということをご説明しました。一方で、ピロリ菌が全く関係のない胃がんも存在することが近年の研究でわかってきました。つまり、「ピロリ菌」という単一の原因から説明すると、胃がんは以下の3種類に分類されることになります。

  1. 1. ピロリ菌陽性胃がん
  2. 2. ピロリ菌除菌後胃がん
  3. 3. ピロリ菌陰性胃がん

今回はこのうち、「ピロリ菌陰性胃がん」について解説します。

ピロリ菌陰性胃がんの頻度

胃がんの原因のほとんどはピロリ菌である!と前回までのブログで強調してきましたが、ピロリ菌が原因とならない胃がんはどれほど稀なものなのでしょうか?当院のデータをお示しします。

ピロリ菌陰性胃がんの頻度

Ishibashi et al. 2020. Clinical Endoscopy

2017 4月から20193月までに当院で行った13476件の胃内視鏡検査の結果をもとに集計したデータです。

 

ピロリ菌陽性胃がんの発見率が2.41%、除菌後胃がんの発見率が0.63%に対して、ピロリ陰性胃がんの発見率は0.095%とかなり低いことがわかります。およそ1000人に1人という結果です。

 

ピロリ菌陽性胃がんや除菌後胃がんに比べれば確かに低い発見率ですが、決して無視できるほどではありません。

 

では、ピロリ菌陰性胃がんにはどのような特徴があるのでしょうか?

 

 

ピロリ菌陰性胃がんは、その存在を知らなければ診断できない

そもそもピロリ菌陰以外に胃がんの原因として可能性が挙げられたのは、1990年頃から報告され始めたEBウイルス関連胃がんが最初です。

 

EBウイルスは、日本人の90%以上が潜在的に感染しているウイルスで、一般的には伝染性単核球症という咽頭炎を起こす病気や、肝炎の原因となることで有名です。

 

胃がんの中に、一定の割合でEBウイルスが胃がん細胞内に入り込んでいることが分かりましたが、その頻度は日本人の場合、胃がん全体の410%程度と言われています。

 

一方で、EBウイルス関連胃がんの中には、ピロリ菌陽性胃がんも含まれますので、純粋なEBウイルス関連胃がんでピロリ菌陰性胃がんはもっと頻度が低いでしょう。ピロリ菌、EBウイルスと胃がんの関連を図示すると以下のようになります。

 

ピロリ菌陰性胃がんは、その存在を知らなければ診断できない

では、EBウイルス関連胃がんは、胃がんの見た目や、顕微鏡でみたときのタイプ(病理)に何か特徴があるのでしょうか?胃の中の特定の部位に発生しやすいなど、いくつか特徴はありますが、見た目はいわゆる通常の胃がんと大差ないことが多く、病理検査をして初めてわかるものです。すなわち、内視鏡の見た目から診断できることは一般的ではありません。

 

EBウイルス関連胃がんの存在よりも、我々内視鏡医師にとってインパクトがあったのは、その後に存在が明らかになってきた別のタイプの胃がんです。その代表格が、「胃底腺型胃がん」です。このような特殊な胃癌は、その存在を知らなければそもそも診断自体ができません。

 

胃底腺型胃がん

胃底腺型胃がんについては、20198月のブログでも少し触れました。胃底腺型胃がんは、その存在を知らなければ見過ごしてしまうような形態をしていることが最も大きな特徴です。

 

ピロリ菌陰性胃がんとして、胃底腺型胃がんの他にも、純粋印環細胞がん、ラズベリー型胃がんなど数種類の胃がんが報告されていますが、今回は割愛させてください(あまりにマニアックなため、次回以降気が向いたらご説明します)。

 

胃底腺型胃がんは、2010年に初めて本邦から提唱された新しいタイプの胃がんで、世界的な認知度はまだそれほど高くはありません(参照1)。

 

参照:Ueyama H et al. Gastric adenocarcinoma of fundic gland type (chief cell predominant type) proposal for a new entity of gastric adenocarcinoma. Am J Surg Pathol. 2010: 34; 609-619

 

さて、胃底腺型胃がんの特徴を簡潔に列挙すると、

 

  • ✓ 通常の胃がんに比べて小さい
  • ✓ 通常の胃がんに比べて粘膜のわずかな隆起程度の変化であることが多い(逆に平坦だったり陥凹しているタイプもある)
  • ✓ 表面に血管拡張が見られることが多い
  • ✓ 多くは低異型度(≒悪性度が低い)
  • ✓ ピロリ陰性胃がんとして当初報告されたが、その後の検討でピロリ陽性および除菌後の粘膜にも発生し得る

 

となります。実際に当院で経験した症例を供覧します。

 

胃底腺型胃がん

Ishibashi et al. Journal of Gastric Cancer. 2019

上段の4症例はピロリ菌陰性の胃粘膜に発生した胃底腺型胃がん、下段の4症例はピロリ菌除菌後に発生した胃底腺型胃がんです。

 

特に上段の症例に注目していただきたいのですが、とにかく小さくて発見しづらいのが最も大きな特徴です。

 

上述した通り、多くの胃底腺型胃がんは低異型度ですが、近年類似した見た目をした「胃底腺粘膜型胃がん」という概念が確立し、こちらはより悪性度が高いことがわかってきました。

 

「胃底腺型胃がん」と「胃底腺粘膜型胃がん」を見た目だけで鑑別するのは難しく、とにかくその存在に気づいて検査(生検)することが重要です。

 

当院におけるデータですが、胃底腺型胃がんを含むピロリ菌陰性胃がんの診断には、一定以上の時間をかけてきちんと胃全体を観察することに加え、一定以上の内視鏡経験年数を有する医師が検査をすることが重要であることを示しました(参照2)。

 

参照2Ishibashi F et al. Quality Indicators for the Detection of Helicobacter Pylori-Negative Early Gastric Cancer: A Retrospective Observational Study. Clin Endosc. 2020: Epub ahead of print.

 

内視鏡センターのページはこちらです。

まとめ

  • * ピロリ菌陰性胃がんはまれだが無視できるほど珍しくはない。
  • * ピロリ菌陰性胃がんの代表として胃底腺型胃がんがある。
  • * 胃底腺型胃がんは非常に見つけづらく、その存在を知っていなければ診断できない。

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