2026年2月10日
消化器内科 尾﨑 良
皆様こんにちは。消化器内科の尾﨑 良です。
今回は冬場に多く報告されるノロウイルスをはじめとした、感染性腸炎についてのお話になります。
感染性腸炎はウイルス・細菌・寄生虫などの病原体が腸に感染して炎症を起こす病気であり、急激に発症する腹痛、嘔吐、下痢が特徴です。
感染性腸炎の感染経路のほとんどは食・水系感染(食中毒)です。食中毒の原因微生物は決まっており、食事内容や時期から原因微生物を推定します。
日本における感染報告の頻度が高いものとしては、ノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、ウェルシュ菌、エルシニアなどが挙げられます。
発生時期は病原体によって異なります。カンピロバクターは年間を通して多くみられますが、夏季には腸炎ビブリオやサルモネラなどの細菌性のものが発生しやすくなります。秋から冬にかけてはノロウイルスが多くなるといわれています。
また、それぞれの病原体は潜伏期間(食べてから症状出現までの時間)が異なり、長いものでは10日かかる場合もあります。
病原体の特定には食品摂取歴、周囲の発生状況、海外渡航歴などの聞き取りが重要です。
下記に病原体と主な感染源、大体の潜伏期間をまとめます(潜伏期間は目安です)。
| 病原体 | 主な感染源 | 潜伏期間 |
| ノロウイルス | 汚染食品(二枚貝の生食)、汚染水、接触感染 | 12~48時間 |
| カンピロバクター | 鶏肉(生・加熱不十分)、生肉、汚染水 | 2~5日(長い場合10日) |
| サルモネラ | 鶏肉、卵、生乳、未加熱食品、汚染水 | 6~72時間 |
| 腸炎ビブリオ | 汚染魚介類(生・加熱不十分)、海水 | 12時間前後 |
| 腸管出血性大腸 | 牛肉(ひき肉)、生野菜、汚染水、動物糞便 | 2~7日 |
| ウェルシュ菌 | 加熱不十分な肉料理、大量調理食品 | 6~24時間 |
| エルシニア | 豚肉(生・加熱不十分)、未殺菌乳製品、汚染水 | 4~7日 |
感染性腸炎の多くは対症療法のみで軽快するため、抗菌薬を必要とする例は限られます。
治療においては脱水の補正がまず重要です。塩分・糖分を含む水分(経口補水液、スポーツドリンクなど)の摂取が望ましいです。食欲があれば食事摂取は可能であり、食べるものは消化にいいおかゆ、麺類、スープ、バナナ、ゆで野菜などが推奨されます。
下痢止めの薬は腸管内容物を体内に留めてしまい、病原体や毒素の排出を妨げることから原則的には使用を避けます。整腸剤は腸内の細菌叢を改善するため積極的に使います。
抗菌薬はカンピロバクター、サルモネラ、腸管出血性大腸菌などの感染において、重症例や乳幼児、高齢者、免疫が低下している患者さんに対して使用することがあります。
特に感染報告が多い病原体について、それぞれの特徴や注意点をみていきます。
11月から2月にかけて多発。アルコールや熱に抵抗性があり次亜塩素酸ナトリウムにて消毒する。ノロウイルスに感染しているカキなどの二枚貝を生や加熱不十分なまま摂取することで発症。潜伏期間は12-48時間で、突発性の嘔気・嘔吐、腹痛から水様性の下痢が、重症例では1日10回以上みられる。ノロウイルスには有効な抗ウイルス薬がなく対症療法が行われる。抵抗力の弱い乳幼児や高齢者が感染すると脱水になりやすい。
ノロウイルスの検査は3歳未満、65歳以上、免疫不全の場合を除いて全額自費となる。証明が必要な場合などでも保険適用外。
汚物(嘔吐物や排泄物)にはノロウイルスが大量に含まれ、感染予防のため次亜塩素酸ナトリウムにて消毒する。
鶏や牛などの腸管内にいる細菌で、少しの菌量で感染するが熱に弱い。潜伏期間は2-5日(長い場合は10日)で、発熱、腹痛、下痢や粘血便が主な症状。
腸炎が完治した数週間後に、ごく稀にギランバレー症候群(手足の麻痺、顔面神経痛、呼吸困難など)を起こすことがある(頻度は0.1%程度)。
生肉、特に鶏肉、卵とその加工品が原因となることが多い。6-72時間の潜伏期間をおいて、激しい腹痛、下痢、発熱、嘔吐がみられる。肉、卵を十分に加熱することで予防する。
菌で汚染された魚介類を生食することで感染する。12時間前後の潜伏期の後、激しい上腹部痛、悪心・嘔吐と水様性下痢、ときに血便がみられる。夏場に魚介類を生食する場合は、新鮮なものを選び、調理前は流水でよく洗う。まな板や包丁はしっかり洗浄する。
ほとんどの大腸菌は無害だが、強い毒素を出し、出血を伴う激しい腸炎を引き起こすものが腸管出血性大腸菌(O157、O26、O111など)である。牛などの家畜や人の糞便中に時々みられ、加熱不十分な牛肉(特にひき肉)、生野菜、汚染水などから感染する。
毒素により溶血性尿毒症症候群、脳症などの危険な合併症を起こし命に関わることもある。
感染性腸炎の多くはご自宅での適切なケアで回復に向かいますが、中には医療機関での診察や治療が必要なケースもあります。特に以下のような症状が見られる場合は、迷わず早めに医療機関にご相談ください。
「感染性腸炎かな」と思っていても、他の深刻な病気が隠れている可能性もあります。自己判断が難しい時や、症状が長引く場合は、お気軽にご相談ください。
*感染性腸炎は急激に発症する腹痛、嘔吐、下痢が特徴であり、病原体により症状や潜伏期間が異なる。
*治療は脱水補正が重要。下痢止めは原則使わない。
*軽症であれば自宅での対応も可能だが、重症と感じたら医療機関への相談が望ましい。
(参考)
・大川 清孝 , 佐野 弘治 , 大庭 宏子 ,他. 急性感染性腸炎の病態と画像診断, 胃と腸, 2025年, 60(5): 665-673
・厚生労働省「感染症発生動向調査」
公開日:2026年2月10日
