皆様こんにちは。小金井つるかめクリニック 消化器内科の川上智寛です。前回は、潰瘍性大腸炎(UC)の治療薬(アザチオプリン)について解説しました。
今回は難治例の治療の一つである、「抗TNFα抗体製剤」について解説します。
TNFα(ティーエヌエフ-アルファ)という炎症を引き起こす物質を選択的に阻害することで炎症を抑える薬剤が抗TNFα抗体製剤になります。
主にステロイドで効果が十分認められないステロイド抵抗例やステロイドを減量・中止すると症状が悪化してしまう(再燃)ステロイド依存例が対象になります。
・抗TNFα抗体製剤
(商品名:レミケード®、ヒュミラ®、シンポニー®)
・感染症
過去に結核やB型肝炎を患った方に抗TNFα抗体製剤を使用した場合、体内に存在する結核菌やB型肝炎ウイルスが再び活性化してしまうことがあるため、薬剤を開始する前の事前検査として採血検査や胸部CT検査などを行っておく必要があります。
検査の結果、陽性であった場合は定期的に画像検査をしたり、予防のお薬を服用しておくこともあります。
・アレルギー
薬剤投与の際にアレルギー反応が起きることがあります。主な症状はくしゃみ、咳、熱感、発熱、頭痛、発疹、嘔吐、顔面紅潮、呼吸困難、血圧低下などなど。
クスリの構造上の影響もあり、レミケード®で経験することが多い印象ですが、事前にアレルギー予防の薬を使用してから投与したり、点滴の投与速度を落として対応したりすることもありますが、投与回数を重ねてから症状が出現する方もいらっしゃるので、投与時にはモニター管理や頻回の血圧測定を行って注意して投与しています。
・悪性腫瘍
がんに対する免疫も落としてしまうということで、他の免疫調整薬と同様に悪性腫瘍の発生が高まるのではないかという危惧がありました。
現時点で統計学的にこの薬剤の使用で悪性腫瘍の発生率が高まったというはっきりした証明はありません。
レミケード®(IFX)、ヒュミラ®(ADA)、シンポニー®(GLM)の3種類の抗TNFα抗体製剤が使用可能ですが、各薬剤の位置づけをどう考えるかが難しいところです。
少し前の報告になりますが、ネットワークメタ分析による間接的手法を用いた抗TNFα製剤を比較した報告があります。
Danese1)らは7つのランダム化比較試験(RCT)を解析して、IFXが寛解導入治療における有効率や粘膜治癒率においてADAよりも優れていたとしている一方、寛解維持治療においては製剤間で有意差は認められなかったと報告しています。
Stidham2)らは7つのRCTによりIFX, ADA, GLMにおける寛解導入率、有効率および寛解維持率を比較したが、製剤間の有意差は認めなかったと報告しています。
商品名 | UCへの適応 | 抗体構造 | 投与間隔 | 投与方法 |
レミケード® | 2010年〜 | キメラ型 | 8週ごと | 点滴静注 |
ヒュミラ® | 2013年〜 | 完全ヒト型 | 2週ごと | 皮下注射 |
シンポニー® | 2017年〜 | 完全ヒト型 | 4週ごと | 皮下注射 |
表に示すような製品ごとの特徴があります。
潰瘍性大腸炎に対して一番はじめに適応となったものがレミケードになります。
それ以降に使用可能になった薬剤は製造方法の変化もあって、免疫原性(投与したときに免疫反応を引き起こす性質)が低くできているため、薬物に対する抗体(抗薬物抗体)が産生されにくくなっており、2次無効といわれる効果減弱が起こりにくくなったといわれています。
大きな違いは“投与方法”です。レミケード®は点滴ですが、ヒュミラ®・シンポニー®はインフルエンザの予防接種と同じで皮下注射で投与します。
以前からヒュミラ®は自己注射が可能でしたが、シンポニー®の投与の基本は「医療機関で注射を受ける」ですが、治療開始後に十分な指導・手順の習得ができ、自己注射の適応が妥当と判断された場合は自宅などで自己注射をすることも可能になりました。
点滴だと病院に滞在する時間は長くなるから嫌。
→ ヒュミラ®、シンポニー®
自己注射するのはちょっと怖い。
→ レミケード®、シンポニー®
4週に1度医療機関に行くのは都合がつきにくい。
→ レミケード®、ヒュミラ®
自分の生活スタイルや性格にあわせて薬剤選択し、きちんと継続した治療を行えることが重要だと思います。担当の先生と相談して決められるとよいのではないでしょうか?
*抗TNFα抗体製剤で潰瘍性大腸炎に対して使用可能な薬剤は現在3種類。
*投与間隔や投与方法などから自分の生活スタイルにあわせて選択することも重要。
*感染症には特に注意が必要であるが、事前検査&定期検査で安全に治療継続可能。