潰瘍性大腸炎の治療薬 カログラ®(一般名: カロテグラストメチル)について

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潰瘍性大腸炎の治療薬 カログラ®(一般名: カロテグラストメチル)について

小金井つるかめクリニック 消化器内科の川上智寛です。

今回はインテグリン阻害薬の内服薬であるカログラ®について紹介します。

 

日本で作られたインテグリンを阻害する世界初の飲み薬!メイド イン ジャパンの薬です!

発売日:2022530

「新医薬品については、薬価基準収載の翌月の初日から1年間は、 原則、114日分を限度として投与すること」というルールがあるので、これまでは2週間ごとに受診して薬を受け取る必要がありました。

 

もうすぐ1年経過するので20236月〜処方日数制限が解除されます。「2週間ごとに受診すること」って(仕事や学校などそう簡単に調整できないですよね)正直かなりハードルが高いと思うのです。処方日数制限解除が目の前にきたタイミングだったので、今回はカログラ®(カロテグラスト)のお話をしていきます。

【作用機序】

マクロファージやT細胞などの白血球が大腸粘膜を攻撃するには血液中から大腸粘膜まで移動する必要があります。血管から組織に入るとき、血管内の細胞に白血球がくっつきます。これを「接着」といいます。

白血球の接着分子 血管内皮細胞の接着分子
α4β7インテグリン MAdCAM-1
α4β1インテグリン VCAM-1

表の組み合わせで接着して組織内に入っていきます。カログラ®はこの2種類のインテグリンの働きを抑えて、大腸粘膜に白血球が過剰に寄ってこないようにブロックして潰瘍性大腸炎の炎症を落ち着かせます。

【効能又は効果】

中等症の潰瘍性大腸炎(5-アミノサリチル酸製剤による治療で効果不十分な場合に限る)

 

炎症性腸疾患における基本の薬である5-ASAで炎症のコントロールがつかない場合、従来であればステロイドの使用が選択されることが多かったのですが、ステロイドの代わりにカロテグラストも候補になるという位置付けです。

ステロイドとカロテグラストの比較

5-ASAだけでは炎症が落ち着かない!

次…どうする?という状況で重症度が高いならこれまでのブログで取り上げた生物学的製剤やJAK阻害薬、免疫抑制薬が必要なるケースが出てくるわけですが、そこまで重症度が高くない(入院を検討するほど状態が悪くないような)ならステロイドやカロテグラストの使用も候補になると思います。

 

どっちを選ぶかを考える上でこの2つの薬の比較をした方がわかりやすいと思うので共通点と相違点を挙げておきます。

 

共通点

①どちらも寛解導入に用いる薬です。漫然と投与継続する薬ではなく、いずれ中止します。

②内服の薬(※ステロイドは点滴もあります)

 

相違点

①内服のしやすさ

②薬価

③副作用

 

①について

ステロイドを仮に40-60mgの内服をする場合、18-12錠飲むことになりますが、ステロイドの錠剤は比較的小さいので内服できないということは少ないかと思います。体内で作られるステロイドの分泌が朝多いので、日内リズムを考慮して“11回朝に内服することが多いです。

カログラ®通常、成人にはカロテグラストメチルとして1回960mgを1日3回食後経口投与するという使い方です。カログラ®1錠が120mgなので1日分だと24錠!3回に分けて服用するので1回あたり8錠です。1個あたりのサイズが「縦17.0mm、横7.5mm、厚さ5.9mm」と結構大きめの飲み薬になります。

ステロイドとカロテグラストの比較

ペンタサ錠500mg 8/

アサコール錠400mg 9/

リアルダ 縦20.7mm、横9.7mm、厚さ7.6mm

 

潰瘍性大腸炎の薬で数を多く飲む必要があってサイズの大きいものの代表が5ASAの錠剤だと思うのですが。それと比べても…リアルダよりは小さいものの、ペンタサやアサコールの1日分の粒数がなんと1回分…「飲み薬ですよ」って言われても、飲みやすくはないですよね。

 

②について

プレドニゾロン/プレドニン5mg 9.8/

(1日あたり40mg-60mg で使用した場合、約80-120/日になります)

 

カログラ®200円/錠なので1日分が200 x 24 = 4800円。

カログラ®の薬だけで約15万円/月の計算です。

ステロイドと比べて、かなり高額な薬剤です。

※潰瘍性大腸炎は指定難病であるため、医療費助成制度の申請をして受給者証をお持ちであるならば助成が受けられます。

 

③副作用について

ステロイドは昔から使われているいい薬です。ただ副作用(易感染、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、精神症状、満月様顔貌などなど細かいものまで入れたら挙げきれないくらいあります)も多いことが知られていて、高用量を長期に使用する場合は特に注意が必要です。

 

一方、カログラ®は添付文書の副作用(1-5%未満)のところに肝機能異常、頭痛、悪心、腹部不快感、白血球数増加、関節痛、尿中蛋白陽性、上咽頭炎、上気道の炎症、発熱、CRP増加の記載があります。内容や頻度をみても比較的軽微なものが多いです。ステロイドとの比較であれば、カログラ®の方が安全性は高いかなと思います。

しかし!カログラ®には特に注意しないといけない重大な副作用が一つあります!

進行性多巣性白質脳症(PML)です。

進行性多巣性白質脳症(PML)

大人になるまでに多くの人が感染し、知らない間に潜伏感染しているJCウイルスが、何らかの原因で免疫力が低下したときに再活性化して引き起こされる中枢神経系の感染症です。

 

JCウイルスに対する治療はなくPMLを発症した場合は進行性経過を辿り、しばしば致死的となりますが、日本での発症頻度は0.9/1000万人と非常に稀です。カログラ®︎の臨床試験でPMLの報告はありません。

 

今のところカログラ®で報告はないし、稀な病態であるとはいうものの、起きてはならないものなので安全性を担保する工夫がされています。

 

多発性硬化症という病気の治療薬である「ナタリズマブ」β1インテグリンとVCAM-1を阻害する薬)投与中にPMLを発症した症例の報告があって、カログラ®︎も同一部分に作用することから理論上はPML を起こしうるわけです。

 

ナタリズマブを投与された多発性硬化症患者でのPML発症率は4.22/1000と報告されています。発症リスクの検討がされていて、「ナタリズマブの継続投与期間(2年を超える治療)」がリスクを上げると言われています。ナタリズマブの投与1年以内のPML 発症率は0.05/1000 と低く、また免疫抑制剤の投与の有無や抗JCウイルス抗体のあるなしにかかわらず、ナタリズマブの継続投与期間が8ヵ月未満であれば PML 発症は一例も報告されていないという事実があります。

それを受けて、カログラ®の投与日数は“最大で6ヶ月までとなっています。そして6ヵ月以内に寛解に至った場合はその時点で投与を終了することと添付文書に記載されています。

さらにナタリズマブの血中濃度が消失してから、脳脊髄液中の免疫状態が回復するまで2ヵ月を要したという報告があるため、カログラ®︎は再投与まで8週間の休薬が設定されています。

 

また「カログラ®錠投与期間管理支援システム」も運用されており、規定の日数を超えて処方されない工夫が行われています。

支援システムなどを使いつつ、最長6ヶ月(休薬2ヶ月)の約束を守って運用することが肝心だと思います。

 

カログラ®とステロイドを比較して記載しました。カログラ®は薬が大きめだったり、1日の錠数が多いなどデメリットもありますが、ステロイドの副作用を懸念している方にはメリットがある薬だと感じます。従来ならステロイド治療を選択するケースで、1番のネックである錠数の多さと錠剤の大きさの点が許容できる方であればカログラ®も候補の一つになりますね。

おまけ

エンタイビオ®との違い

カログラ®はインテグリン阻害薬に分類される薬で以前ブログで紹介した点滴投与のエンタイビオ®(ベドリズマブ:α4β7インテグリン阻害薬)と同じ種類になります。

 

・α4β1インテグリンとα4β7インテグリンを共に阻害する

・飲み薬である

・寛解導入のみに使用する

この点がベドリズマブと異なります。

 

消化管に特異的に発現する接着分子としてMAdCAM-1があり、それに対応する接着分子がα4β7インテグリンです。これらは臓器特異性接着分子と呼ばれます。腸の免疫に特化して作用するエンタイビオ®PMLの懸念は低く、寛解導入も維持療法も可能なわけです。

 

作用する場所がインテグリンという接着分子であるため、「インテグリン製剤」という同一の分類にされていますが、寛解導入のみに使うのか、寛解・維持含めて使うのかといった使い方や副作用に対する注意の向け方に違いがある薬剤です。

内視鏡センターのページはこちらです。

まとめ

 

* インテグリン製剤の飲み薬であるカログラ®の位置付け(使いどころ)は「ステロイドの代わりに使うこと」が想定される。
* 副作用に進行性多巣性白質脳症(PML)があるが、「最大6ヶ月まで」「休薬8週間」の約束事をきちんと守り、投与期間管理システムなどを活用することで安全に使用可能。

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