大腸ポリープの発見率と検査の「質」

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大腸ポリープの発見率と検査の「質」

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。

 

今回は前回の内容の続きで、大腸ポリープの発見率について、当院のデータをご紹介しながら、世界のスタンダードとの比較を行なっていきたいと思います。

 

なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。

 


大腸ポリープの発見率に関する疑問

 

前回までは大腸ポリープの切除方法についてご紹介し、その中で当院の大腸ポリープの発見率(41.6%)について言及しました。今回は下記の疑問について考えていきたいと思います。

 

「ポリープが見つかった方=41.6%」この数が多いのか少ないのか(他施設や他国のデータはどうなのか)

 

この話をする前に、大腸ポリープと大腸がんの関係について、以前よりも踏み込んだ解説をしておきます。

 

大腸ポリープの代表格は「腺腫」

 

以前、2019年9月のブログの中で、大腸ポリープにはいくつかの種類があり、その中でも「腫瘍性」のポリープは放置すると癌化のリスクもあるため切除の適応となることをお伝えしていました。実は、「腫瘍性」ポリープの中にもいくつか種類があります。代表格が、「腺腫(Adenoma、アデノーマ)」というタイプのポリープです。

 

大腸がんは、組織学的(病理学的)には「腺癌」という種類のがんです。大腸の壁は数層の層構造になっており、一番内側の層が粘膜です。粘膜はたった一層の上皮細胞という細胞で裏打ちされて構成されますが、この上皮細胞が内側にくぼむことで「腺管」という構造を形成しています。ざっくり言うと、腺管構造を模倣するように増殖したものが「腺腫」という良性腫瘍であり、無制限に増殖し局所での浸潤や遠隔転移を起こすものが「腺癌」です。

 

腺腫と腺癌はより細かく見ると何が違うのか、腺腫から腺癌になるというのはどういうことなのか、などについてはまた次回以降ご説明します。

 

ここでは、腺腫は腺癌(=大腸がん)になり得る、ということをおさえて頂きたいと思います。

 

大腸内視鏡検査が普及し始めた30年ほど前(1990年代)から、腺腫をきちんと見つけられれば大腸がんの予防になるのではないか?と考えられていましたが、実際にこれが証明されたのは、2010年にNew England Journal of Medicineという権威ある医学雑誌に発表されたKaminskiらによる大規模な疫学調査が初めてです。

 

この研究では、腺腫性ポリープの発見率が高いほど大腸がんによる死亡を減少させる効果がある、ということを証明しました。

 

「大腸ポリープの発見率」に関する様々な指標

 

腺腫性ポリープの発見率、すなわち、1人の内視鏡検査で何%の確率で腺腫性ポリープが見つかるか、という指標として、ADR(Adenoma Detection Rate)という概念が提唱されました。ADR 40%というのは、仮にみなさんが大腸内視鏡検査をうけると、40%の確率で腺腫性ポリープが発見される、ということです。ではなぜわざわざADRという概念を作って管理する必要があるかというと、検査医師の技術、検査前準備の達成度合いなど様々な要因により、ADRは容易に変化するからです。

 

実際、ADRは世界中の様々な報告を見てみるとかなりばらつきがあります。私が2020年2月時点で、過去5年分の国際科学誌に報告された論文をざっとさらってみた結果が下の表です。(いわゆるSelection Biasというバイアスが存在するため、各国の正確なデータや代表値とは限りません。また、例えばアメリカからは多数の報告がされていますが、最も症例数が多かった研究をとりあげています。)

 

 

ADR: Adenoma Detection Rate

AADR: Advanced Adenoma Detection Rate

SDR: Serrated adenoma Detection Rate

 

上の表をもとに国ごとのADRを比較してみましょう。23.7%から68.6%という報告まで様々であることがわかります。症例数が多い研究ほど均一化されADRが低く、症例数が少なく検査医数も少ない研究ほどかたよりが出るためかADRが高い傾向があります。これらを平均するとだいたい40%程度になるでしょう。

 

前回、当院のデータをお示ししましたが、2019年4月から12月までに検査した方が3894人、うち腺腫性ポリープが見つかった方が1620人(41.6%)という結果でした。世界的な基準から言っても、遜色のないデータであることがわかります。

 

もう一度強調しますが、ADRを高く維持することは大腸がんの死亡率を低減させるために有効です。

 

ADRを高く維持することは、検査医師のトレーニング、検査環境の整備、検査前の準備などすべての質を高く保つ必要があり、これをクオリティ・コントロールと呼びます。内視鏡検査におけるクオリティ・コントロールは私のライフワークの一つなのですが、これについてもまたいずれ詳しく解説をしていきます。

 

ADRが低いことは大腸がんの見落としを招くリスクがあることと同義です。

 

日本ではそれほど口うるさく学会も勧告していませんが、米国では学会からの勧告で、検査を受ける方は、検査医師のADRが最低25%をクリアしているか確認するべきである、と明記しています。(Rex DK et al. 2017 GIE)

 

担当の先生に「ADRは何%ですか?」と聞くのは野暮かもしれませんが、せっかく大腸内視鏡検査を受けられるのでしたら、検査機関が大腸がん死亡を減らすためにどのような取り組みをしているのかを確認してみるのは良いかもしれません。

 

さて、上の表で説明していない項目が二つあります。AADR(Advanced Adenoma Detection Rate)とSDR(Serrated adenoma Detection Rate)です。次回は腺腫と腺癌の関連について、このAADRとSDRという概念を交えて解説したいと思います。これらの概念をもとに、

 

ポリープといっても様々な種類があるが、種類によって見つかる割合が異なるのか

ポリープが見つかりやすい人とは、どういう人なのか

 

の2つの疑問についても答えていきたいと思います。

 

内視鏡センターのページはこちらです。


まとめ

 

* 大腸ポリープの発見率を管理する指標の代表格はADR(腺腫性ポリープ発見率)である。

* 検査医のADRが25%以上であることは、大腸がんの見逃しが少ないことの保証となり得る。

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