皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。
今回は前回の内容の続きで、大腸ポリープの種類について細分類をご説明、それぞれにおける「がん化」のしやすさについて解説したいと思います。
なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。
大腸ポリープの種類
前回は大腸ポリープのうち、「腺腫(アデノーマ)」という代表的な腫瘍についてご説明しました。また、この腺腫の発見率=ADRが内視鏡検査の質の評価上極めて重要であること、ADR≧25%は検査医師に求められる最低限の技量であることもご説明しました。
さて、実はこの「腺腫」にも様々な種類があり細分類されています。そもそも分類は何のためにあるのかというと、「がん化」のしやすさが異なることが理由の一つです。下表は、日本消化器病学会発行の「大腸ポリープ診療ガイドライン2014」を一部改変したものです。
この表の分類は、大腸ポリープを形態的に分類したものです。形態とはポリープの「見た目」のことを言いますが、より正確には顕微鏡で見たときの見た目で、そもそも腫瘍か非腫瘍か、腫瘍であればどのような発生の仕方をしたのかを分類したものです。
「腫瘍か非腫瘍か」というのは極めて重要で、基本的に腫瘍性のポリープでなければ癌化はしません。そのため、形態的に腫瘍性ポリープであるかどうかの診断は、その人の将来的な発がんリスクを予測する意味でも重要となります。腫瘍性ポリープがあり、なおかつ「高リスクなポリープ」である場合は、発がんリスクが高いと判断し、その後の大腸内視鏡検査のフォローアップ期間を短縮するように米国内視鏡学会及び日本消化器内視鏡学会では勧告されています。
高リスクなポリープとは?
形態学的な分類とは違うもう一つの手法として、異型度から分類するという手法もあります。異型度とは簡単に言うとどれだけ正常な構造からずれているかということです。異型度は大腸腫瘍の場合は「高異型度」と「低異型度」に分類します。
高リスクなポリープは、大きくわけて3種類です。2002年にWinawerらは,①サイズが10mm以上の腺腫、②絨毛状腺腫(病理組織学的に絨毛構造を25%以上有するもの)、③高異型度腺腫の3種類が高リスクポリープであると定義し、この定義は現在もなお使用されています(引用1)。
引用1:Winawer SJ and Zauber AG. The advanced adenoma as the primary target of screening. Gastrointest Endosc Clin N Am. 2002; 12: 1-9
上の表を見てみると、通常型腺腫の亜分類の中に、管状腺腫と絨毛腺腫の2種類があることがわかります。通常型腺腫のうち90%以上のポリープは管状腺腫に該当しますが、まれに絨毛腺腫であることがあります。ご自分がポリープの切除を受けた場合に、切除したポリープが「高リスクなポリープであったかどうか」認識しておくことは大事です。
では、高リスクなポリープの頻度はどれほどのものなのでしょうか。当院と系列の新宿つるかめクリニックで2019年4月から12月までに切除した1903個のポリープの内訳をお示しします。
このように、高リスクなポリープとしては、10mm以上のポリープが3.4%、絨毛腺腫が0.3%、高異軽度管状腺腫が2.4%と、合計しても切除したポリープ全体の5%程度です。ちなみに、全体からみて6個のポリープ(0.3%)はすでに早期大腸がんの診断でした。
前回(2020年2月:後半)のブログの中で紹介した国別の大腸ポリープ発見率のデータですが、この中にAADR(Advanced Adenoma Detection Rate)というものがありました。これは、高リスクポリープをどのくらい発見できたかという指標です。日本やドイツの報告では2%程度とされていましたので、当院のデータは比較的高い(よく見つけている)と言うことができそうです。
また、同じ表内にSDR(Serrated adenoma Detection Rate)というものもあり、こちらは上の表で鋸歯状ポリープの同定率に相当するものです。鋸歯状ポリープの詳細、大腸がんとの関連やSDRの意義については、また改めて別の回にご説明します。
切除した大腸ポリープの種類でフォローアップ期間は異なる
外来でよく受ける質問の一つに、「大腸ポリープを切除したあと、次は何年後に大腸内視鏡を受ければよいのですか?」というものがあります。
この質問に対しては、実は正解はありません。そのためクリニックや病院ごとに対応が異なると思います。
一つの根拠として、米国内視鏡学会の大腸ポリープのサーベイランスガイドラインでは、①大腸がんあるいは高リスクポリープを切除した場合は3年以内、②低リスクポリープを切除した場合は5年以内、③ポリープがない場合や非腫瘍性ポリープの場合は10年以内のフォローアップを推奨することになっています。
このフォローアップ戦略の究極の目的は、「Interval cancer」という、「見落としがん」による大腸がん死亡を減らす、というものです。このため、このフォローアップ戦略は個人個人に個別化した戦略とは言い難いと考えます。また、欧米人と日本人ではそもそも大腸がんのなりやすさが違いますし、癌統計上、日本では近年大腸がんの罹患率が上昇していることも示されています。
当院では、個人個人が享受可能な利益(個別化した大腸がん死亡率の減少)を享受できるように、①大腸がんあるいは高リスクポリープを切除した場合は1年後、②腫瘍性ポリープを切除した場合は1〜3年以内、③ポリープがない場合や非腫瘍性ポリープの場合は5年以内のフォローアップを推奨しています。
今後、日本でも大腸ポリープ切除にはどのような戦略でフォローアップを行うべきか、個別化したガイドラインが発行されることになると思いますが、現時点でどのように対応するかは、切除後に担当医師とよく相談することをおすすめします。
さて、次回は2019年度最後のブログになる予定です。4月に私が当院に赴任してからの1年間の研究内容について、総括を行ってみたいと思います。
まとめ
* 大腸ポリープには発がんリスクの高い「高リスクポリープ」が存在する。
* 高リスクポリープを切除した場合には、原則1年後の大腸内視鏡検査によるフォローアップを推奨する。