小金井つるかめクリニックの川上智寛です。
2023年7月に「便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症」が日本消化管学会より刊行されました。便秘のガイドラインは日本消化器病学会の「慢性便秘症診療ガイドライン2017」がありました。2017年以降に新規使用可能になった薬もあるため、ガイドライン 2017に記載がなかったものについても言及されていました。6年ぶりに発刊された慢性便秘症のガイドラインを参考に「慢性便秘症について」や「使用可能な薬剤について」整理してみようと思います。
便秘
本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態。
慢性便秘症
便秘が慢性的に続くことによって、学業、就労、睡眠といった日常生活に影響を及ぼす症状をきたし、検査、食事・生活指導または薬物治療が必要な病態。
このようにガイドラインで定義されています。
便秘とは「便が硬くなることですっきりでないこと」
慢性便秘症「便秘によって日常生活や身体に支障をきたす状態」
定義は小難しい感じの言葉になるので簡単な言葉で言い直すとこんな感じでしょうか?
「自発排便が週3回」「兎糞状または硬便」「排便時のいきみや残便感」をキーワードに診断することになっていますが、日常診療の場では「便秘によって日常生活や身体に支障をきたす状態」であれば、基準自体を満たしていなくても慢性便秘症として介入することが望ましいとされています。
便秘の症状で外来を受診される方は多いです。慢性便秘症の有病率は国や地域のよって違いがあるものの、10−15%と見積もられています。若い女性に多くみられるといわれますが、男女ともに年齢に伴って増加し、高齢の方では男女差がなくなるとされています。
便秘症のリスク要因として、女性・身体活動性の低下、腹部手術歴(特に大腸手術や婦人科手術など)、加齢が挙げられています。また特定の基礎疾患や薬によっても引き起こされます。
便秘の原因となりうる基礎疾患
代表的なものとして「糖尿病、甲状腺機能低下症、うつ病などの精神疾患、パーキンソン病、強皮症などの膠原病」などが挙げられています。
便秘を起こす薬剤
代表的なものとして抗コリン薬、向精神薬、オピオイド(医療用麻薬)、抗がん剤などがあります。
抗コリン薬は蠕動運動や腸液分泌を抑制するため便秘を引き起こします。
向精神薬も抗コリン作用を有しているものは便秘を誘発します。
オピオイドも蠕動運動が低下することで便秘を起こします。咳止めで使われるコデインや痛み止めとして処方されるトラマドールなどはよく処方されるため内服中は便秘に注意が必要です。
・排便習慣の急激な変化
・血便
・6ヶ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少
・発熱
・関節痛
・腹部腫瘤の触知や腹部の波動、直腸診による腫瘤触知や血液の付着などの身体所見
・50歳以上の発症
・大腸疾患の既往や家族歴
便秘に加えて上記のような症状や危険因子がある場合は腫瘍や炎症性の病気かどうかを検討する必要があるため大腸内視鏡検査を行いましょう。
食事・運動・飲酒・睡眠の生活習慣改善が大事です。
特に運動療法(特に有酸素運動)が症状改善に効果があると報告されています。
またキウイフルーツやプルーン、オオバコの摂取の有効性が示されています。
2、薬物治療
基本
緩下剤(酸化Mg、PEG、ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット、ラクツロース)+必要に応じて刺激性下剤の頓用使用
内服による治療
種類 |
具体例 |
推奨 |
浸透圧性下剤 |
酸化マグネシウム、ポリエチレングリコールなど |
強 |
粘膜上皮機能変容薬 |
ルビプロストン、リナクロチド |
強 |
胆汁酸トランスポーター阻害薬 |
エロビキシバット |
強 |
プロバイオティクス |
整腸剤など |
- |
刺激性下剤 |
センノシド、ピコスルファートなど |
- |
膨張性下剤 |
ポリカルボフィルカルシウム (コロネル®、ポリフル®) |
- |
漢方薬 |
大黄を含む漢方など |
- |
消化管運動賦活橤 |
モサプリド |
- |
※モサプリドは慢性便秘症に対して保険適応がない
※ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットは「他の便秘症治療薬(新規便秘症治療薬を除く)で効果不十分な場合に使用すること」という条件がついている。
3、その他の治療
外用薬による治療(坐薬や浣腸)+摘便
2023年のガイドラインをザッとまとめるとこんな感じです。
内服治療については次回のブログで作用機序などを含めて詳しくお話します。
長くなったのでこのあたりで今回は終わりにします。
まとめ
*便通異常症診療ガイドライン 2023が刊行された
*2017年のガイドラインに記載があったルビプロストンやリナクロチドについては蓄積された有効性や安全性のデータも記載され、2017年以降に発売になったエロビキシバットについては新たに記載された