皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。
これまで、糖尿病治療の根幹である食事療法、運動療法について解説してきましたが、今回から薬物療法について取り上げます。
当院では「メトグルコ🄬」という商品名で院内採用しているため、そちらの方がピンとくる方も多いかもしれません。肝臓において糖が新しく作られるのを防いだり、筋肉や脂肪に糖を取り込むよう促すことで、血糖値を下げる効果があります。また、最近便に糖を逃がす効果があることも注目されています。
1日2-3錠の少ない量から開始し、徐々に量を増やしていく、というのがセオリーです。最大1日9錠まで増量することができ、量に応じて効果が強まることが知られています。1錠10円程度と非常に安価であり、コストパフォーマンスの良い薬であることも知られています。
メトホルミンは糖尿病治療において極めてポピュラーな薬であり、多くの方が安全に服用しています。しかし、服用に際してはいくつか留意点があります。
まず、おなかがゆるくなる、腹痛などの胃腸症状が時折見られます。これについては、当初あれ?と感じられる方が多いですが、日常生活において支障をきたすほどではない場合、少し我慢して飲んでいるとそのうち体が慣れてくることが多いです。
また、「乳酸アシドーシス」と呼ばれる、非常にまれではあるのですが、発症した場合時に致死的となる副作用があります。これは、腎臓の機能が低下している患者さんに投与を続けていると発生することがあり、eGFRという、腎機能を表す数値が30を切っている患者さんには投与しないこととされています。
関連して、「造影剤」と呼ばれる、内臓や血管の様子をくっきりと映し出すことのできる薬剤を注射してCTや心臓の検査をすることがありますが、この造影剤の使用により、一時的に腎臓の機能が低下することがあります。ですので、造影剤使用の際に、メトホルミンの内服を中止してくださいと言われるケースがあるかもしれません。病院によって決まりが違うのですが、当院では、造影剤検査の前後2日間と検査当日、あわせて5日間の休薬をお願いしています。
また、「シックデイ」と呼ばれる、食事が摂れないほど体調が悪いときは、上述の「乳酸アシドーシス」の発症リスクが上昇するため、やはり休薬が望ましいです。食事が摂れないなら薬どころではないと思いますが、真面目な患者さんですと「せめて薬だけでも欠かしてはいけない」と思われる方もいらっしゃるため、内服開始の際に説明するようにしています。少し鼻水が出る、のどが痛い、微熱がある、程度で食事は問題なく摂れる、ということであれば無理に休薬する必要はありません。
シックデイのリスクとしては、脱水や内臓機能の低下などがあります。そのため、75歳以上のご高齢の患者さんはシックデイリスクが若い患者さんより高いため、メトホルミンは慎重投与になります。75歳を超えたら今まで飲んでいたものを中止しないとダメ、というわけではありませんが、私は75歳以上の方に新規で開始することは避けています。
最近、日本糖尿病学会より「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」が刊行されました。下図を見ると、肥満・非肥満によって薬物選択の優先順位が少し異なることがわかります。「ビグアナイド薬」と記載されているものがメトホルミンにあたります。
肥満を合併する、インスリン(血糖値を下げるホルモン)は潤沢に出ているが、それがうまく効いていない「インスリン抵抗性」が想定される患者さんでは優先順位第1位、肥満のない、インスリンを自前で作る力がもともと体質的に弱い「インスリン分泌不全」が想定される患者さんでも優先順位は第2位となっています。肥満を合併しておりインスリンを自前で作る力が体質的に弱い方もいらっしゃるため、必ずしも「肥満=インスリン抵抗性のみ」と断言はできないのですが、いずれにせよ、体重に関係なく優先順位の高い薬であることがわかります。この表は日本人2型糖尿病患者さんの治療方針決定において非常に重要な表であるため、今後も折に触れて参照する機会があると思います。