糖尿病薬物治療その3:SGLT2阻害薬について

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糖尿病薬物治療その3:SGLT2阻害薬について

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。

今回は昨今特に使用頻度の増えてきたSGLT2阻害薬を取り上げます。

SGLT2阻害薬とは

  SGLT2阻害薬というのは薬の種類名で、実際の薬物名でいきますと、院内では、ジャディアンス®、フォシーガ®の採用があります。また、前回紹介したDPP4阻害薬の成分をミックスした、カナリア配合錠®、トラディアンス配合錠®も採用しています。前者は「カナグル®」という名前の薬と「テネリア®」という名前の薬、後者は「トラゼンタ®」という名前の薬と「ジャディアンス®」という名前の薬をミックスしたものです。

 作用メカニズムとしては、血液の中に有り余った余分な糖を、尿中に出して血糖値を下げる、というものです。160-100gの糖、カロリーで言うと240-400kcalが排泄される計算になります。余分な糖のみならず、糖を排泄しようと尿量も増えますので、体重減少効果も期待できる薬です。体から糖を逃がして血糖値が下がりすぎることはないのか、と気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、必要以上の糖は逃がさない仕組みになっていますので、この薬が原因で低血糖を起こす可能性は低いと言われています。

服用に際しての注意点

 SGLT2阻害薬の服用に際してはいくつか留意点があります。

 まず、糖を含んだ尿が排泄されますので、糖を餌に雑菌がわくことがあり、陰部・性器に感染症を起こしうることが知られています。特に女性は尿道が短いためもともと膀胱炎を起こしやすい、という方がいらっしゃいますが、この薬を飲んでいるときには特に注意が必要です。排尿後や入浴時におしもの周りを清潔にするよう心がけましょう、と説明しています。

 また、上述の通り尿量が増えますので、特に夏場などは脱水予防のため水分摂取を心がけることが必要です。その際、ジュースや清涼飲料水で水分補給してしまってはせっかく余分な糖を出したのが帳消しになってしまいますので、水かお茶で水分補給をするようにしましょう。

 さらに、これは前々回のメトホルミンと同様なのですが、「シックデイ」と呼ばれる、食事が摂れないほど体調が悪いときは、「ケトアシドーシス」と呼ばれる合併症リスクが上昇するため、休薬が望ましいです。少し鼻水が出る、のどが痛い、微熱がある、程度で食事は問題なく摂れる、ということであれば無理に休薬する必要はありません。

 前々回のメトホルミンを扱ったブログで「75歳以上のご高齢の患者さんはシックデイリスクが若い患者さんより高いため、メトホルミンは慎重投与、75歳以上の方に新規で開始することは避けている」と記載しましたが、このSGLT2阻害薬については、後述の通り心臓・腎臓といった高齢者で機能低下を起こしやすい内臓に非常に良い効果がもたらされることが実証されているため、ある程度お元気な高齢者では慎重に投与するケースもあります。

 最後に、これは医療者側が留意することなのですが、前回・前々回のブログで取り上げた「インスリン分泌不全タイプ」、つまり、体質的・遺伝的に血糖値を下げる物質であるインスリンを自前で作る力が弱い人にSGLT2阻害薬を投与すると、前述の「ケトアシドーシス」のリスクが高まるため、慎重に投与することが重要です。私はそのような患者さんでは、インスリンの注射、あるいは体内でインスリンを作るのをサポートする飲み薬を併用するようにしています。ちなみに、インスリンは自前でたくさん作れるがそれがうまく活かせていない「インスリン抵抗性」タイプではあまりこの心配はありません。

 余談ですが、SGLT2阻害薬は余分な糖の排泄、尿量増加によるダイエット効果が期待できるため、一部の自由診療クリニックなどで若年女性などをターゲットに、糖尿病ではないがダイエットをしたい、という方に向けて自費で処方されているようです。しかし、これまで述べてきたような注意点に留意し、処方に精通した医師が慎重に投与すべき薬と考えますので、私はあまり好ましくないことだと考えています。

「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」では

 毎回出している「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を見ると、肥満・非肥満によって薬物選択の優先順位が少し異なることがわかります。

 肥満を合併する、インスリン(血糖値を下げるホルモン)は潤沢に出ているが、それがうまく効いていない「インスリン抵抗性」が想定される患者さんでは優先順位第2位、肥満のない、インスリンを自前で作る力がもともと体質的に弱い「インスリン分泌不全」が想定される患者さんでは優先順位は下位となっています。上述の通り、「インスリン分泌不全」タイプの患者さんでは合併症のリスクが高まるため、あまり優先して投与する薬ではないのですが、11回の内服で済む血糖降下作用の高い薬ですので、やせ型の「インスリン分泌不全」タイプの患者さんであっても、適切に他の薬と組み合わせて処方することがあります。

「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」では

SGLT2阻害薬のさらなるメリット

 SGLT2阻害薬は糖尿病治療のために作られた薬なのですが、近年の研究で心臓・腎臓を傷めてしまった患者さんに大きな利益をもたらされることが実証されており、最近では糖尿病がなくても心不全・慢性腎臓病を患っている患者さんにSGLT2阻害薬を投与しましょう、という動きが加速しています。

SGLT2阻害薬のさらなるメリット

https://www.bjd-abcd.com/index.php/bjd/article/view/103/221より

 上図はSGLT2阻害薬を内服した人、そうでなかった人の心臓病の発生率を比べた研究なのですが、青色の線の「Empagliflozin」と書かれたSGLT2阻害薬を内服した人達において、心臓病の発生率が内服後1年、2年・・・と経過するにつれてどんどん下がっていき差がついていることが伺えます。これまで糖尿病の薬でこれだけ心臓病の発生率を低下させた薬はありませんでしたので、とても大きなインパクトがありました。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2024816より

 

 上図はSGLT2阻害薬を内服した腎臓病患者さん、そうでなかった腎臓病患者さんの腎機能低下の度合を比べた研究なのですが、青色の線の「Dapagliflozin」と書かれたSGLT2阻害薬を内服した人達において、最初は少し腎機能の低下がみられるのですが、12ヶ月以降逆転し、以降はSGLT2阻害薬を内服している人の方が腎機能低下の度合がゆるやかになり、腎臓病の進展を食い止めることができていることがわかりました。

 このように、SGLT2阻害薬は血糖降下作用のみならず、心臓、腎臓など様々な内臓にも良い働きを及ぼすことが知られており、まだ見ぬ良い効果はないかと今も研究が進んでいるとても興味深い薬なのです。

まとめ

  • *SGLT2阻害薬は、余分な糖を尿中に排泄することで血糖値を下げる
    *陰部・性器感染症、脱水、シックデイ対策に留意が必要
    *「インスリン分泌不全」タイプの患者さんには慎重投与。どちらかというと「インスリン抵抗性」タイプの患者さんで優先順位が高い
    *血糖降下作用のみならず、心臓・腎臓といった、特に高齢者で機能低下を起こしやすい内臓に非常に良い効果をもたらされることが実証されており、昨今非常に注目されている薬である

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