皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病科の深石貴大と申します。今後、定期的に糖尿病に関する話題について、ブログで解説をしていきたいと思います。
初めてブログを執筆させて頂きますので簡単に自己紹介いたします。2013年に東京医科歯科大学を卒業し、研修・大学院における研究を経て、2021年度より小金井つるかめクリニックの火曜・水曜・土曜午前の外来を担当させて頂いております。
糖尿病、高血圧、脂質異常症といった健診で見つかりやすい比較的なじみの深い疾患の他、甲状腺・副腎・下垂体などの「内分泌疾患」と呼ばれる、一般的にはなじみの薄い、しかし早期発見・治療が必要なことも多い疾患を専門にしております。
これまで武蔵野赤十字病院、青梅市立総合病院での勤務経験があり、この度多摩地域で腰を据えて診療にあたることに縁を感じております。上記疾患以外の一般内科診療にもあたっておりますので、お困りのことがございましたら遠慮なく御相談いただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、題名にもあります通り、今回は糖尿病にまつわる「偏見」について、糖尿病を患っている患者さんにも、そうでない方にも重要なテーマだと思いますので解説させていただきたいと思います。
糖尿病というと、皆さんはどういったイメージを思い浮かべますでしょうか。
「血糖値が高くなる病気」「放っておくと恐ろしい合併症につながる病気」といったものや、「食べ過ぎの人や運動不足がなる病気」「太った人がなる病気」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。もしかすると、身内の方やご友人の方、あるいは医療スタッフから、「糖尿病なんだから甘いものを食べてはいけません」「そんなだらしない生活だから糖尿病になるんでしょう」と言われ、ご気分を悪くされたという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
また、糖尿病を患っているがゆえ、就業、あるいは保険・ローンの審査において不当な扱いを受けた、という残念な話を耳にする機会もあります。
糖尿病の発症には、食習慣や運動習慣の他に、遺伝的な要因、あるいは社会的な要因など様々な要因が関係し、決して「生活習慣が悪いから」「太っているから」、まして「だらしないから」だけで発症する病気ではありません。同じような年齢・体型・生活習慣の人でも糖尿病を発症する人、しない人がいます。また、「太っているから」発症するなら、力士は皆糖尿病を発症しているはずです。
さらに、日本人は欧米人と比較して、血糖値を下げる物質である「インスリン」を作る力が弱く、糖尿病を発症しやすい体質であるとされています。
糖尿病は、適切な治療・管理を続けていくことで、合併症の発症を抑制し、健康な人と変わらぬ生活を送ることができます。昨今は飲み薬、注射の薬などが非常に進歩し、患者さんおひとりおひとりの病状に合わせた専門的な治療を提案することができるようになっています。
食事についても、1日の適正な摂取カロリーに応じて調節するという考えが基本ですので、「甘いものを食べてはいけない、お腹いっぱい食べてはいけない」ということはなく、「お昼は久しぶりの会食で少し食べすぎたから、夕飯は控えめにしよう」といった形で帳尻を合わせたり、「これまでは毎日3時のおやつを食べていたけど、頻度を減らして週1-2回の自分へのごほうびにしよう」、といったように、習慣化していたものを減量する形で対応できるケースが多いです。
日本糖尿病学会・日本糖尿病協会は、上記のような糖尿病患者さんに対する誤った偏見を「スティグマ(stigma)」と呼び重く捉え、下記のような「アドボカシーに関する意見広告」を作成しました。アドボカシーとは「支えること、支援すること」という意味です。
以下声明を抜粋します(一部改変・略)( https://dm-rg.net/news/2019/11/020214.htmlより)。
『スティグマは、特定の属性に対して刻まれる「負の烙印」という意味をもち、誤った知識や情報が拡散することで、対象となった者が精神的・物理的に困難な状況に陥ることをさす。
近年、糖尿病治療は飛躍的に向上し、血糖コントロールを良好に保てば、健常者と変わらない生活を送ることができるにもかかわらず、古い情報にもとづく判断により、必要なサービスが受けられない、就職や昇進に影響する、などの不利益を被るケースが報告されている。
こうしたスティグマを放置すると、患者は糖尿病であることを周囲に隠す → 適切な治療の機会損失 → 重症化 → 医療費増 → 社会保障を脅かす、という悪循環に陥り、個から社会全体のレベルまで、さまざまな影響を及ぼすことになる。
両会は「正しい治療を適切に続ければ、一病息災で長寿を全うできる。血糖コントロールを適切に行うことで合併症発症を減らし、医療費削減にも貢献できる」ことを社会に発信し、患者が治療を継続できるような環境づくりを目指す必要があるとしている。
合併症発症予防を目的とする治療中断の阻止、受診勧奨など、これまでの糖尿病啓発では、合併症の恐ろしさを強調して患者自身の自覚を促す切り口が多く、患者の置かれた環境を理解し、それにもとづく実行性の高い指導を行うという視点に乏しい面があった。ネガティブな面を強調した情報が独り歩きすることで、社会における糖尿病に対するスティグマが助長されてきた面が否めない。』
これまでは「食事療法・運動療法を守れなかったり、思うように通院できないとお医者さん・看護師さんに叱られる・脅される」ということが、「患者教育」の名の下、患者さん・医療スタッフにとってもある種当たり前のことだった面がありました。
それで一念発起し、良い方向に向かっていく患者さんばかりであればもしかするとそれでも良いのかもしれませんが、「どうせまた医者の所に行っても頭ごなしに怒られるだけだ」「糖尿病と言ったって痛くもかゆくもないし、あれもダメこれもダメと言われるくらいなら治療なんてやめてしまおう」と通院中断し、結果として本来損なうはずではなかった健康を損なうことになった患者さんも多くいらっしゃることでしょう。
私はいち糖尿病専門医として、治療がうまくいかないとき、その背景に何があるのかを探り、その患者さんらしい生活を保ちながら適切な選択肢を提供することも含めた「専門的な治療」を提供できるよう、日々努めております。