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糖尿病の運動療法について

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。

 

前回は糖尿病の食事療法について解説しましたが、今回は「運動療法」を取り上げたいと思います。

糖尿病治療の根幹としての食事・運動療法

 前回も言及しましたが、糖尿病治療の根幹は食事・運動療法です。糖尿病の治療というと、もしかするとまずお薬をイメージする人が多いかもしれませんが、食事・運動療法で思うような改善が得られない、あるいはどうしても不十分な食事・運動療法しか実践できない、といったケースで、補助的にお薬を併用する、という考えが主流です。

 薬を使っているんだから食事・運動療法はおざなりでよい、という考え方は好ましくありませんし、あまり良好な治療効果も得られにくいのではないかと思います。

コロナ禍と運動不足

 コロナ禍が社会に及ぼした負の影響は計り知れませんが、そのうちの一つが「運動不足」ではないかと思います。患者さんの健康診断データを拝見していても、コロナ禍前後で体重、血糖値、脂質などの項目に大きな変化が生じており、理由を伺うと「コロナの影響で自粛・在宅ワークとなり、運動不足で太ってしまい・・・」という例が枚挙に暇がありません。

 裏を返せば、社会全体に蔓延した運動不足が国民の健康に与えた影響は大きく、運動の重要さがクローズアップされたのではないかとも思います。

有酸素運動と無酸素運動

 運動は大きく分けて「有酸素運動」と「無酸素運動」に分けられます。名前くらいは聞いたことがある、という方も多いかもしれません。前者はジョギング・水泳など、後者はいわゆる筋トレに属するものです。その他、低負荷で繰り返し行う筋力トレーニングを「レジスタンス運動」と呼ぶこともあります。

 有酸素運動は心肺機能・持久力を高め、無酸素運動は筋肉量を増加させるもので、組み合わせることにより高い効果が期待できます。「活動している筋肉への酸素供給が間に合う運動強度か否か」がその名前の由来です。

 おおざっぱに「楽である~ややきつい」という体感であれば有酸素運動、「きつい」と感じるなら無酸素運動と考えられます。ですので、ジョギングや水泳でも、強度を上げてきつくやりすぎると筋肉への酸素供給が間に合わず、無酸素運動になってしまうこともあるのです。1分間あたりの脈拍100程度が有酸素運動の負荷としては適切と考えられていますので、スマートウォッチなどで脈拍を把握できる方はチェックしてみてください。

運動療法の注意点

 運動療法を安全に行うにあたり、糖尿病に伴う全身の状態に目を向ける必要があります(合併症については別途解説の予定ですので、ここでは詳述はしません)

 まず、「糖尿病網膜症」という、血糖コントロールの悪化に伴い眼の奥に出血がみられる状態では注意が必要です。糖尿病網膜症が進行した状態で強度の高い運動を行うと、より出血が進行するケースがあります。私は初診の患者さんに「治療方針にかかわりますので、自覚症状がなくても必ず眼科を受診しましょう」と説明しますが、これが理由の一つです。

 その他、「糖尿病性神経障害」により足の感覚が低下している場合は、小さな怪我に気づかずそこから感染症を引き起こすリスクもありますので、入浴の際など注意深い観察が必要です。また、自律神経障害と呼ばれる、血圧や脈拍の変調が見られる場合、日常生活以上の運動は避けるべきとされています。

 「狭心症・心筋梗塞」のような心臓病がある場合も注意が必要です。運動らしい運動でなくても、坂道や階段を上るなどの労力で息苦しさ、胸の痛みを感じた場合、すぐに医師に相談してください

サルコペニアについて

 加齢や運動不足、低栄養に伴う筋力低下により、転倒・骨折・要介護などのリスクが高まっている状態のことを「サルコペニア」といい、高齢化に伴い重要性が増しているトピックです。昔風の言い方をすると「よぼよぼ」の状態をイメージしやすいですが、肥満ではあるが筋肉量の少ない状態は特に「サルコペニア肥満」と呼ばれ、一見肉付きのよさそうな方でも注意が必要です。

 簡易的なテスト法として、下図のように、両手の親指と人差し指で輪を作り、利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を囲めるか、というものがあります。ちょうど囲める、あるいは隙間ができる、となるとサルコペニアのリスクがあります。

 他、椅子に座った状態で、腕を前に組み、立ち上がる・座ることを5回繰り返す時間を測る「5回椅子立ち上がりテスト」というものもあります。12秒以上かかる場合はサルコペニアが危惧されます。

 サルコペニアの予防・治療には、食事・運動が非常に重要です。特に十分なエネルギーと、筋肉の元となるタンパク質の摂取が重要です。しかし、「糖尿病の数値が悪い・肥満があるのでカロリー制限をするよう言われている」「腎臓の数値が悪いのでタンパク質を制限するよう言われている」という判断が難しいケースもあります。患者さんの病状に応じた対応が求められますので、医師へ相談してみてください。運動は、レジスタンス運動による筋肉量の増強が有効です。

サルコペニアについて

運動不足の解消のために

 以上、運動療法について解説しましたが、正直なところ、現代社会において、日常生活で運動のためにまとまった時間を作っていらっしゃる方はごく一部ではないかと思います。「11万歩は欠かさず歩いている」「ジムで体を鍛えたり、水中ウォーキングを行っている」「週末は仲間とテニスを楽しんでいる」という方には、「私より確実に運動していらっしゃいますね」と尊敬の念を込めて申し上げています()。私も含め、多くの方は「仕事で忙しくて運動の時間なんて取れない」「いざやろうと思ってもつい面倒で長続きしない」というのが実情ではないかと思います。

 私個人は、なるべくエレベーターではなく階段を使う、週末に子供と遊ぶ、など、日常生活に何とか運動を組み込んで最低限運動不足にならないよう工夫しています。当院は3Fにありますので、通院の時にエレベーターではなく階段を使ってみるのはいかがでしょうか

 その他「駅ではエスカレーターやエレベーターではなく階段を」「バスや電車で一駅分歩いてみる」など、日常生活でも組み込めそうな内容を診察室で提案したりもしています。

 最近は動画配信サイトで、音楽に乗せて楽しく取り組めるエクササイズも充実しています。コロナ禍はまだ続きそうですが、ぜひ自分に合ったやり方で、無理なく続く範囲で、運動不足の解消に努めてみてください。

まとめ

  • *コロナ禍に伴い社会全体で運動不足が深刻化しており、健康への影響も著しい。
    *運動は心肺機能を高める有酸素運動と、筋力を高める無酸素運動(レジスタンス運動)に分けられる。
    *病状に応じて、運動の実施には注意が必要である。
    *加齢、運動不足、低栄養による筋力低下をサルコペニアと呼び、高齢者の転倒、骨折、要介護のリスクを高める。エネルギー・タンパク質の摂取と、筋力を高める運動が有効である。
    *日常生活の中に運動を組み込むなど、まずは無理なく続けられる範囲で運動不足の解消に努めていきましょう。

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