皆さま明けましておめでとうございます、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。
今回は11月の内容の続きで、内視鏡治療についてご説明いたします。内視鏡治療と一括りに言っても多くの種類がありますので、まずは今回は概要をご説明し、今後数回に分けて詳細をご説明していきます。
なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。
内視鏡治療の適応(おさらい)
内視鏡治療には「がん」や「前がん病変」を対象とするものの他に、食道静脈瘤の硬化療法や毛細血管拡張症に対するアルゴンプラズマ焼灼術など様々なものがあります。
また、「がん」や「前がん病変」を対象とするものの中にも、2019年11月のブログでご説明した通り、広義の内視鏡治療には「腹腔鏡手術」や「胃・大腸内視鏡の延長上の手術」の両方を含みます。
同じがんでも、病気の部分さえ切り取ってくれば治る早期がんが内視鏡治療の対象ですが、適応をどのように決定するか(=早期がんとは何か)については、以前のブログをご参照ください。
さて、今回は「がんや前がん病変を対象とした胃・大腸内視鏡の延長上の手術」に限って、具体的な手法のご説明をします。
大腸ポリープの切除を例にとって
胃でも大腸でも治療法は共通する部分が多いので、大腸ポリープを含む大腸腫瘍を例にとってみます。現在主流となっている大腸病変の手術方法は、大きく分けて3種類です。
① 内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection:EMR)
② 内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)
③ コールドスネアポリペクトミー(Cold Snare Polypectomy:CSP)
今回はこのうち、EMRについてご説明します。CSPについては近年開発された手法であり当院でも頻用する手術方法ですが、こちらについては次回ご説明いたします。
大腸ポリープのEMR
EMRの具体的な手順を下のシェーマに沿ってご説明します。
おさらいですが、大腸は粘膜・粘膜下層・筋層という複数の層構造を形成しており、ポリープをはじめとする腫瘍の多くは一番表層の粘膜から発生します。ポリープを切除する際は、大きく取りすぎて穴が空いてはいけませんから最小限で取りたい一方で、取り残しがあってもいけません。
そこで、このEMRという手法は、ポリープ・粘膜・粘膜下層の一部を一塊として、かつ安全に切除することを目的として開発されたものです。
まず、ポリープの直下の粘膜下層を狙って局注針という専用器具を用いてそっと針を刺します。この針の内腔を通して生理食塩水などの人体に害のない液体を注入(局注)し、ポリープ直下の粘膜下層を膨らませます。膨らませる意味は、ポリープそのものと筋層を物理的に離すためです。
次に、スネアという輪っかのような器具をポリープに引っ掛け縛ります。このスネアは電気を通すことが可能で、体外に貼った対極板というアースを利用することで、触れている部分を焼き切ることができます。
大腸ポリープに対するEMRの実際
実際に当院で行った大腸ポリープのEMRの画像を供覧します。
左の画像がもとの大腸ポリープです。大きさは10mm程度です。このポリープに局注を行った後が右の画像です。ポリープの直下の粘膜下層に膨隆ができ、形が変わっているのが分かると思います。
次にスネアを用いてポリープの下部の膨隆を結紮したのが左の画像です。このまま通電して焼き切ると、右の画像のように切除ができます。
どんなポリープでもこのようにEMRが可能かというと、そうではありません。具体的には大きさ(直径)が20mmを超えるような大きなポリープや、局注してもうまく膨隆を作れないポリープなどが含まれます。
このようなEMRで治療が難しいポリープに対する治療として開発されたのがESDです。ESDについてはその開発の歴史とあわせて、次回以降にお話いたします。
内視鏡センターのページはこちらです。
まとめ
* 大腸ポリープの治療法は大きく内視鏡的粘膜切除術(EMR)・内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・コールドスネアポリペクトミー(CSP)に分けられる。