小金井つるかめクリニックの消化器内科の川上智寛です。
当院は多摩地区随一の件数の内視鏡検査を行う内視鏡センターを有しております。
内視鏡件数総数は、2022年度は13,443件(2021年度 12,828件)と3年連続で1万件超えを達成いたしました。
内視鏡件数の増加に伴い、大腸カメラの予約が取りにくい状況が続いたため2023年4月~第一/第三水曜日の2列体制、火曜日の増枠を行いました。平日の検査であれば比較的予約が取りやすくなりました(土曜日の検査はもともと需要が多いこともあり、少し先の予約になりますが…)。是非、ご相談ください。
【GS:胃カメラ CS:大腸カメラ】
大腸カメラの検査枠増に関連して、今回は「大腸がん検診」と「便潜血検査」についてお話します。
【大腸がん検診】
2022年5月に公表された2019年の全国がん登録データによると大腸がんの罹患数は15万5625人(男:8万7872人、女:6万7753人)でした1。がん罹患数で大腸がんは総数第1位になっています。
みなさんは住民検診や職域検診、自己負担で受ける人間ドックなど様々な形でがん検診を受けていらっしゃると思います。住民検診については実施状況や精密検査受診状況などを厚生労働省へ報告する義務がありますが、職域検診や人間ドックなどは明確な報告義務がないので、どうなっているかの正確なデータがありません。
日本に”がん検診受診率”を正確に把握する仕組みがないのもいかがなものかなと思いますが、国民生活基礎調査をもとに推計したデータである程度把握しています。
2019年の国民生活基礎調査による大腸がん検診受診率は40-69歳 44.2%1でした。
これまで自治体が行う検診の受診率の目標は50%(今後60%に目標を引き上げる案があるようです)でしたので、目標に到達していないのが実情です。2020年から新型コロナ感染症の流行があった影響で、2019年よりも受診率は下がっているようです。
大腸がんの死亡率は男女とも増えているため、大腸がん検診を活用し早期発見することが大切だと感じています。
日本における大腸がん検診は免疫法の便潜血検査(2日法)が一般的です。
便潜血検査は便の中に血液の反応があるかどうか調べる検査です。便潜血検査には化学法と免疫法があります。化学法では獣肉、魚肉の血液や緑黄色野菜、鉄分にも反応してしまうため便を取る3日前から食事や内服/サプリメントの制限をしなければいけません。現在、主流は免疫法です。免疫法のメリットとしては食事制限が不要なこと、あと消化酵素(胃酸や膵液)で変化したヘモグロビンには反応しにくいため大腸以外の出血で陽性になることが少なくなることが挙げられます。免疫法の精度(感度・特異度)は化学法と同等以上であると報告されています。
この論文2に記載してあるので説明します。
この論文は免疫法において便採取回数の違いによる感度、特異度を評価したものです。
感度 |
特異度 |
|
1日法 |
56% |
97% |
2日法 |
83% |
96% |
3日法 |
89% |
94% |
感度:がんの人を正しく陽性と判定する割合
特異度:がんではない人を正しく陰性と判定する割合
大腸がんに対する感度と特異度は表に示す通りでした。感度は1日法より2日法・3日法が優れており、特異度は3日法より1日法・2日法が良かったという結果です。
結論「2日法が最良のバランスである」
このことから免疫法は2日法が推奨されています。
そうはいっても便潜血検査も万能ではなく、出血を起こしていない早期の大腸がんや大腸ポリープなどは便潜血検査で引っ掛けることができません。「陰性だったから絶対大丈夫」とは言い切れないことだけはご理解ください。
令和2年度地域保健・健康増進事業報告の概況に記載ある「令和元年度がん検診受診者における要精密検査の受診状況」の数字を見てください。
大腸がん検診受診者 |
3,961,985人 |
|
要精密検査者数 |
234,661人 |
全体の5.92% |
がんであった人 |
6,543人 |
全体の0.17% 精検の2.79% |
これが2019年の実数です。
大腸がん検診(便潜血検査)を受けた人の中で精密検査(≒大腸カメラ)をした人が全体の5.92%で、精密検査を受けた人の2.79%に大腸がんがあったという結果です。
受診者 |
10,000人 |
精密検査 |
592人 |
大腸がん |
17人 |
わかりやすいように1万人便潜血検査を受けたとすると本当にがんがある場合は17人という人数になります。全体の中でみたら17人というのは少ない印象を抱くかもしれません。
ただ便潜血陽性の人に限っては35人に1人の頻度で大腸がんが見つかっているということになります。学校の1クラスが大体35人くらいでしょうか。その中に1人って考えると多い気がしませんか?
日本の大腸がん検診は他のがん検診と比べても精密検査の受診率が低く、大体70%前後で推移しています。便潜血検査がスクリーニング検査として有用であっても大腸の内視鏡などを受けなければ大腸がんの死亡率を下げることにはつながりません。
「検査したことある友達から話を聞いて、大腸カメラって下剤を飲むのが大変だって聞くし、つらいんでしょ?恥ずかしいし。できれば受けたくなくて。」と外来で言われることもあります。確かに下剤を飲むことや検査自体に苦痛がないわけではありません。ただ実際受けてみたら「思ったより楽でした」と感想をいわれることも多くあります。
僕もできる限りつらくないように検査を頑張ります!
折角受けた「便潜血陽性」の結果を大切に、ネガティブな情報に二の足を踏まず、早期発見のためにも外来でご相談ください!
大腸がんの年齢調整死亡率は男女ともG7(フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)の中でワースト1位です。
精密検査の受診率を上げることが死亡率を下げることに直結するはずです。
便潜血陽性の判定が出た場合はそのままにしないで、大腸の内視鏡検査を受けるよう医療機関を受診ほしいと思います!
まとめ
* 大腸がんの罹患数は男女ともに多く、大腸がん死亡者数は増加の一途。
* 早期発見が大事ですから「便潜血検査陽性」の結果は放置せず、精密検査(特に大腸カメラ)を受けてください。
参考文献