皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。
今回は前回の内容とは直接関係ありませんが、好酸球性食道炎という疾患について11月に学会報告を行い論文の形で発表も行いましたので、12月中に2回に分けて解説いたします。
なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。
好酸球性食道炎は逆流性食道炎とは違う?
食道炎という言葉はよく耳にすると思います。特に「逆流性食道炎」は我々内視鏡医も日々の検査の中でよく目にする疾患ですし、外来で胸焼けなどの症状から診断を受けたり、健診で胃内視鏡検査の際にたまたま診断されたりすることがあるかもしれません。
好酸球性食道炎とは、逆流性食道炎とは全く異なる疾患概念で、予後や治療戦略が大きく異なり、また内視鏡での見た目も異なります。
逆流性食道炎についてはまたの機会に詳しく解説致します。
好酸球性食道炎は難病である
さて、好酸球性食道炎は、以下のような特徴があります。
(1)アレルギー(特に特定の食物に対するアレルギー)が発症に大きく関与する。
(2)若年者で発症のリスクが高く、小児期に発症することもある。
(3)症状の多くは「胸焼け」「つかえ感」「前胸部の痛み」「嘔吐」など逆流性食道炎に類似する。
(4)多くは制酸薬と呼ばれる内服薬で簡単に治療ができるが、一定の頻度で治療に反応せず進行することがある。
(5)進行した場合には免疫抑制を狙った特殊な治療が必要になることがある。
また、好酸球性食道炎は、根治が難しいという点で難病に指定(指定難病98)されています。
好酸球性食道炎の頻度は増え続けている
この疾患概念はそれほど古いものではなく、むしろ最近になって確立したものです。
欧米を中心に1990年代から報告が増え、日本においても10年ほど前から症例報告の蓄積がなされています。2000年代には非常に稀な疾患とされていましたが、近年の報告ですと徐々に有病率は増えている傾向にあり、2016年の報告では日本における有病率は全人口あたり0.4%程度と推定されています。
欧米ではこの20年間ほどで有病率が19.5倍にまで増えている、という報告もありますし、日本における有病率は今後も増える可能性があります。
好酸球性食道炎の診断方法
当院で診断した実際の好酸球性食道炎の内視鏡写真を供覧いたします(次回ご報告する論文に掲載した写真です)。
左が食道炎のない正常な食道粘膜、右が好酸球性食道炎です。
写真のように、食道粘膜に「縦方向の溝」ができるのが最も特徴的な所見で、この部位から生検(組織診断)をすると、好酸球という血球が粘膜下に多く認められます。好酸球はアレルギーに関与する血球で、白血球の一種です。
好酸球性食道炎の診断には、「組織診断で一定数の好酸球浸潤があること」と「関連する症状があること」の2項目を満たす必要があります。
ところが最近、特に健診などで全く症状がないのに胃内視鏡検査でたまたま特徴的な内視鏡所見があり、組織診断で好酸球浸潤が認められるというケースが増えています。
無症候性食道好酸球症とは
この「たまたま好酸球性食道炎らしい所見を呈するケース」はどう解釈したらよいのでしょうか。
診断基準では「関連する症状があること」が必須なので、このようなケースは好酸球性食道炎とは言えません。今のところ、便宜的に「無症候性食道好酸球症」というカテゴリーを作って分類しています。
無症候性食道好酸球症の扱いの難しさ
現在学会で議論になりつつあるのは以下の点です。
(1)無症候性食道好酸球症は放置してよいのか?=治療するべきか?
(2)無症候性食道好酸球症は好酸球性食道炎になるのか?
(3)もしなるとすれば、その背景のリスクは何か?
私たちは、当クリニックと系列の新宿つるかめクリニックで行なった胃内視鏡検査のデータベースをもとに、多数例の無症候性食道好酸球症の方の追跡調査を行い、上記3つのクエスチョンに対して一定の見解を見出しました。
次回はこの見解について、学会報告と論文発表の報告を兼ねてお話します。
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まとめ
* 好酸球性食道炎は逆流性食道炎とは異なり、しばしば重症化する難病である。
* 好酸球性食道炎の日本における頻度は増え続けている。
* 好酸球性食道炎に類似した内視鏡所見がありながら症状のない「無症候性食道好酸球症」という概念がある。