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機能性消化管障害 〜その1 概念と診断基準〜

皆様こんにちは。小金井つるかめクリニック 消化器内科の川上智寛です。今回からの数回は「機能性消化管障害(Functional gastrointestinal disorders: FGIDs)」についてお話しようと思います。

 

最近、当院を受診される方で「なんとなく胃のあたりが変な感じが続く」「おなかの調子が悪い」といった症状を訴える方が多い印象を受けます。個人的な見解ではありますが、コロナ禍による健康不安や社会的・経済的な不安、テレワークなどによる生活習慣の変化などが影響している気がしてなりません。

 

こういった方々の多くは、胃がんなどの重大な病気ではなく、最終的には機能性消化管障害(FGIDs)と診断できる場合が多いのですが、正確に診断するためには専門的な知識が必要です。

 

今回はこのFGIDsについて概要をご説明したいと思います。

 

機能性消化管障害(FGIDs)とは

1988年にローマで開催された世界消化器病学会で、消化器症状があるにもかかわらず、その原因となる客観的な所見が見当たらないものをFGIDsと定義し、その診断基準が提唱されました。この診断基準は改訂を重ねられており、現在は2016年に改定されたRome Ⅳ診断基準が最新のものです。

 

Rome IV診断基準では、診断のためにまずFGIDsの分類を行います。

 

<Rome ⅣにおけるFGIDsの病型分類>

  1. A.機能性食道障害
  2. B.機能性胃十二指腸障害
  3. C.機能性腸障害
  4. D.機能性腹痛症候群
  5. E.機能性胆嚢・乳頭括約筋障害
  6. F.機能性直腸肛門障害
  7. G.新生児・乳幼児の機能性消化管障害
H.小児・青年期の機能性消化管障害

ご覧のように、Rome分類が当初薬効評価の臨床試験を目的とした診断基準であるという側面もあるため、かなり細かい分類になっています。

 

そして、このそれぞれの分類の下に、さらに細かい細分類が存在し、実際の診断はこの細分類の病名をつけ、詳細な診断基準のもとに症状からその方の状態をある一定の疾患カテゴリーに分類していく、というのがFGIDsの診断プロセスです(今回は詳細は割愛します)。

 

FGIDsはRome Ⅳ分類に照らし合わせて診断とするべきですが、実臨床においては「診断基準の○○の部分が合致しないから違う病気」とはいいきれず、適切な検査を行った上で、訴える症状に基づいて疾患概念に即して判断し、治療介入や生活習慣改善の提案を行うことの方がより現実的だと思います。

 

3大FGIDs

FGIDsには非常に多くの疾患が属しますが、実臨床で診断を行う場合に診断される機会の多い「3大FGIDs」として以下の疾患が挙げられます。

 

  • ・機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia: FD:胃の痛みや胃もたれなどの症状が続いているが、内視鏡で所見をみとめないもの
  • ・非びらん性胃食道逆流症(Non-erosive reflux disease: NERD:胃酸の逆流によって胸焼けや呑酸、胸の痛みの症状があるが、内視鏡で炎症を認めないもの
  • ・過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome: IBS:腹痛とそれに関係する下痢や便秘などの便通異常があるもの

 

もう少しザックリいえば・・・(どのくらいの期間・頻度でという定義を除いて)

 

  • ・NERD:喉元~胸のあたりに痛みがでる
  • ・FD:みぞおちあたりに痛みや膨満感などの症状がある
  • ・IBS:おなかの痛みと下痢や便秘などがある

FGIDsの診断のためには検査は必須

上記3大FGIDs(NERD、FD、IBS)は、いずれも症状があって検査をしてみても「異常はない」のが特徴です。逆に、内視鏡や血液検査、画像検査などで異常がないことを証明できないと、こういったFGIDsの診断には至りません。

 

適切な検査をされていないのに、「症状からおそらくIBSですよ」と言われ続け、IBS用の処方を受けてもあまり良くならずに受診され、実際にきちんと検査をすると炎症性腸疾患(IBD)でした、ということはままあります。

 

一方で、FGIDsは、IBDのように放置すると転機を悪くしてしまう疾患ではなく、命に関わるものではないですが、症状が慢性的に続くため生活に支障をきたすという点ではきちんと治療するべき病態です。

 

FGIDsの病態

FGIDsはどのような原因で生じるのでしょうか。すなわち、FGIDsと診断される方にはどのような特徴があるのでしょうか。

 

原因については1つだけでなく、複数の要因が影響しあって起きていると考えられており、そのことが病態をより複雑にしています。様々なアプローチで研究がされており、今後より明確になっていくことが期待されていますが、まだまだ不明確な部分も多くあります。

 

現在、以下に示すような要因が挙げられることが多いですが、未だ明らかにされていないそれ以外の要因も多彩に関わっているものと考えます。

 

1.消化管運動障害

2.内臓知覚過敏

3.心理的要因

4.遺伝的要因

5.生活習慣の乱れ(アルコール、喫煙、不眠など)

6.腸内細菌叢(腸内フローラ)

 

こういった要因を改善するような生活習慣の見直しや薬物療法が治療の基本に挙げられます。

 

FGIDsの治療戦略

FGIDsのどの疾患を対象に治療するかによって対処法は変わりますが、生活習慣の見直しという点で共通して言えることは、睡眠不足や社会的ストレス、不規則な生活習慣などによる心理的要因の改善は有効であることが多いということです。

 

具体的には、対象とするFGIDsによって対策が異なります。

 

FDの場合には、胃酸の過剰分泌につながるような大量飲酒や過度な香辛料を控えることが有効な場合があります。

 

IBSの場合には、腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れが病態の形成に関わっているケースがあり、腸内細菌のバランスを整えるために水溶性食物繊維を積極的に摂取することが有効な場合があります。

 

一方で、生活習慣の改善をはかってみても、すぐに困っている症状がなくなるほど劇的に改善しないことももちろんありますので、生活習慣改善の取り組みをサポートする形で内服薬の使用を併用していきます。

 

FGIDsの種類によって、腸管運動調整薬や漢方薬、整腸薬、下痢止めや便秘薬などを使い分けていきます。心理的要因が強い場合には、抗不安薬や抗うつ薬なども考慮されます。

 

FGIDsと脳腸相関

腸は「第二の脳」とも呼ばれており、独自の神経ネットワークを持つことが知られています。すなわち、腸は脳からの命令が無くても独立して活動することが出来るのです。

 

脳と腸はお互いに自律神経系/内分泌系/免疫系を介して情報伝達しており、脳⇄腸が双方向にやりとりをしていることが最近の研究で報告されています。

 

一方向でなく、双方向に影響しあっていることを「脳腸相関」を呼び、近年の研究成果の蓄積を受けてRome Ⅳでも脳腸相関が強調され、その上で消化管運動障害や内臓過敏、腸内細菌、免疫・内分泌機能の変化が症状に関与していることが言われています。

 

最近の報告をみると、腸→脳への情報のやりとりに関して、腸内細菌の関与が重要な役割を果たしていることがいわれています。この点の考察を交えて、次回以降3回にわたってFGIDsに含まれる主要な疾患であるNERD、FD、IBSについて解説してみようと思います。

 

腸内細菌叢(腸内フローラ)の解析

2021年4月から、当院の健診で「腸内細菌叢(腸内フローラ)の解析」ができるようになりました。

 

ご自身の腸内細菌を構成する菌のバランスや種類数などから腸内環境の良し悪しを判定できます。その結果から腸内環境改善のためのアドバイス(心掛けて摂取する方がよい食材など)が得られます。

 

ご興味のある方は健診窓口にお問い合わせください。

「腸内フローラ」の詳しい内容はこちらからどうぞ。

消化器内科のページはこちらです。

まとめ

  • *機能性消化管障害(FGIDs)は、適切な検査によっても異常が認められないのが特徴である。
  • *3大FGIDsとして、機能性ディスペプシア(FD)、非びらん性胃食道逆流症(NERD)、過敏性腸症候群(IBS)がある。
  • *FGIDsの病態には生活習慣の乱れや腸内細菌叢(腸内フローラ)、心理的要因など様々な要素が関わり治療を難しくしている。

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