胃内視鏡検査における適切な検査時間とは

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胃内視鏡検査における適切な検査時間とは

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。

 

今回は、2020年3月に受理された当院発の論文の内容をもとに、「胃内視鏡検査における適切な検査時間」についてお話します。

 

4月からは、当院に新しく赴任した消化器内科の川上智寛医師と、交代交代でブログの更新を行なっております。

 

私の担当は内視鏡検査その他、川上医師は炎症性腸疾患についてとなります。

 

なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。

 

胃内視鏡検査は通常何分程度かけるもの?

 

胃内視鏡検査は、おもに食道・胃・十二指腸を順番に観察する検査です。

 

健診などで検査を受けた方は「だいたい3〜4分で終わりますよ」と説明してもらって検査を始めることが多いと思いますが、体感的にはそれより長く感じたり、思ったより短かったと感じたり人それぞれだと思います。

 

当院の健診目的の内視鏡検査のデータベースをもとに算出すると、全内視鏡検査の平均時間は210.1秒(3分半)でした。

 

検査前に「3〜4分程度ですよ」とご説明している内容は妥当と考えます。

 

さて、3月に受理された論文の内容から、もう少し細かいデータを紐解いていきます。こちらは、2017年4月から2019年3月までの2年間で、当院で健診目的に行った胃内視鏡検査13477件を対象にした研究です。

  Ishibashi et al. Clin Endosc. 2020. Epub ahead of print より改変

 

検査医師9名を対象に、各検査医師の検査平均時間を算出すると、最も長い検査医師で252.9秒(4分ちょっと)、最も短い検査医師で184.1秒(3分)という結果でした。

 

健診の胃内視鏡検査の究極の目的は早期胃がんの発見ですから、検査医ごとにどれくらい早期胃がんが見つかったかもあわせて解析しました。

 

全検査医師の平均は0.27%でしたが、検査医師ごとにややばらつきがあります。発見数がゼロという検査医もおりますが、もともとの検査数が少ないことも要因の一つではあります。

 

では、純粋な疑問として、検査時間が長いほど、早期胃がんの発見率は高くなるのでしょうか。

 

検査時間は長ければ長いほどよいのか?

 

検査医師の内視鏡経験年数や性別を加味した上で、検査医の平均検査時間と早期胃がん発見率に関連があるかどうか、統計的に解析をしてみると、相関がある(検査時間が長いほど早期胃がん発見率は上昇する)ことがわかりました

 

健診で内視鏡検査を受ける方の多くは無症状で、もともと胃がんが発見される可能性が比較的低い集団ですが、有症状でもともと胃がん発見の事前確率が高い方を対象とした別の研究では、「検査時間5分」を基準とすると、5分以上検査時間をかけることで胃がんの発見率が増加する、という報告もあります(参照)。

 

参照:Kawamura T et al. Dig Endosc. 2017: 29(5); 569-575.

 

無症状の健診受診者に限っては、検査時間3分〜4分の範疇で、できるだけ長く検査時間をかけた方がよいと言えるでしょう。

 

次に、「どんな受診者も一律に検査時間が長くなればよいのか?」という疑問について検討してみます。

 

ピロリ菌の感染状態によって検査時間と早期胃がん発見率の関係は変化する

 

以前のブログでもご説明しましたが、ピロリ菌感染は胃がんの発生の主たる原因です。一方で、近年ではピロリ菌を除菌した後に時間差をもって発生する胃がん(いわゆる「除菌後胃がん」)や、そもそもピロリ菌に感染したことがなくとも発生する「ピロリ菌陰性胃がん」の頻度が相対的に増えています。除菌後胃がんについての詳細は、次回のブログでご説明いたします。

 

ピロリ菌感染状態(陽性(現感染)、除菌後、未感染)によって胃がん発生のリスクは異なりますから、当然検査医師側も、リスクが高い方には相当の「心構え」をした上で検査をすることになります。データは割愛しますが、ピロリ菌陽性(現感染)の胃を見るときには検査時間は長くなり、ピロリ菌除菌後やピロリ菌未感染の胃を見るときには検査時間は短くなる傾向があります。

 

この背景を加味して、ピロリ菌感染状態(陽性(現感染)、除菌後、未感染)別に、観察時間と発見率に関連があるかどうか調査したのが下記の表です(相関関係分析という手法で解析しました)。

      Ishibashi et al. Clin Endosc. 2020. Epub ahead of print より改変

 

表中の数値は、相関係数という数値で、1に近づくほど関連が強く、0に近いほど関連が薄いことを示します。

 

ご覧の通りで、ピロリ菌除菌後の胃を観察する際にかけた時間とピロリ菌除菌後胃がんの発見率に相関があることがわかります。

 

一方で、ピロリ菌陽性の方や未感染の方は、胃がんの発見率とそれほど強い相関はないことが示唆されます。

 

「検査時間が長くなる=辛い時間が長くなる」は間違い!

 

以上のように、特にピロリ菌除菌後の方は、しっかり時間をかけて胃の中を観察することが重要であることが示されましたが、特に除菌後の方は毎年内視鏡検査を受ける必要もあり、できるだけ楽に検査を受けたいと思うのが当たり前でしょう。

 

もともと内視鏡検査を受けるのが得意な方であれば、検査時間が3分から4分に伸びてもそれほど辛くはないかもしれませんが、喉の反射が強い方や、げっぷの我慢が辛い方は、この「1分の差」は途方もなく長く感じるかもしれません。

 

当院では、10年前の開院以来、内視鏡検査時に鎮静剤使用をご希望に応じて行なってきた実績がございます。

 

鎮静剤の使用にあたっては、事故を起こさないための安全管理を徹底する必要があり、当院では蘇生トレーニングを積んだ専門医、内視鏡センター専属スタッフ、薬剤師の連携により合併症のない安全な鎮静剤使用下の内視鏡検査を提供しています。

 

受理論文の紹介

 

本ブログで引用した論文は、2020年3月に国際科学雑誌「Clinical Endoscopy」(Impact Factor: 1.840)に受理されました。

 

Quality Indicators for the Detection of Helicobacter Pylori-Negative Early Gastric Cancer: A Retrospective Observational Study

 

Fumiaki Ishibashi, Konomi Kobayashi, Keita Fukushima, Ryu Tanaka, Tomohiro Kawakami, Junko Kato, Kazuaki Sugihara

 

論文はこちら(英文です)

https://www.e-ce.org/journal/view.php?number=7337

 

内視鏡センターのページはこちらです。


まとめ

 

* 胃内視鏡検査において、特にピロリ菌除菌後の場合は、早期胃がんの発見のために観察に時間をかける必要がある。

* 楽に検査を受けるためには鎮静剤の使用が有用である。

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