皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。
今回は注射薬である、インスリンを取り上げます。
インスリンとはそもそも、膵臓から出されるホルモンの名前で、唯一、血糖値を下げる作用があります。血糖値を上げるホルモンはいくつかあるのですが、血糖値を下げるホルモンはインスリンだけです。注射製剤として加工されたインスリンを外から注射することで血糖値を下げることができ、糖尿病治療において重宝されています。現時点では、飲み薬のインスリンというものはなく、注射器を用いたものを使用します。
インスリンが使用されるシチュエーションはいくつかあります。まずは、1型糖尿病・膵臓術後・膵炎後のような、体の中でインスリンを作る力が低下しており、外から補わないと体がインスリン不足になってしまう時です。体内でインスリンの分泌を促す飲み薬もありますが、自前で作る力が大きく低下している場合は外から補うことが必要となります。
次に、自前でインスリンを作る力はあるが、高血糖の状態が続いており、インスリンの生産が追い付いていない場合です。高血糖の状態が続くと、膵臓はフルスロットルでインスリンを作って血糖値を下げようと頑張るのですが、それでも追いつかないほどの高血糖がある場合、膵臓が疲れ切ってしまいインスリンを出す力が落ちてしまうことがあります。そういった場合、外からインスリンを補うことにより、高血糖を是正することができることに加えて、体もインスリンを作るためにフルスロットルで頑張る必要がなくなりますので一休みでき、その間にインスリンを作る力を回復させることができます。インスリンを作る力が回復した場合、インスリンを減量・中止できるケースもよく経験しますが、これは専門医による慎重な判断が必要です。
ひとくちにインスリン製剤と言っても、大きく分けて2種類あります。
一つ目は「超速効型インスリン」と呼ばれる、主に食事の直前に注射し、これから食べる食事により血糖値が上がらないようにするものです。院内採用ではヒューマログ、アピドラがあります。通常、インスリンが十分出る人は、食後に「追加分泌」と呼ばれる、食事によって上がった血糖値を下げるためにインスリンが追加で作られます。しかし、インスリンを作る力が弱いとこれが不十分で、食後血糖値が上がったままなかなか下がらないということになるため、それを補うのがこの超速効型インスリンです。
もう一つは、「持効型インスリン」と呼ばれる、主に1日1回(食事のタイミングとは関係なく)注射し、食事とは関係ない血糖値の上昇を抑えるものです。院内採用ではランタスがあります。血糖値の上昇は食後に起こるというイメージが強いと思いますが、夜間などの絶食状態においても、体が低血糖状態にならないよう糖が体の中で常時作られています。通常であれば「基礎分泌」と呼ばれる、1日を通じて出ているインスリンがうまく作用して血糖値が上がりすぎないよう調整してくれるのですが、これが不十分で、体の中で常時合成される糖に勝てないと食事とは関係なく血糖値が上がってしまうのです。それに対抗するべく使われるインスリンが持効型インスリンです。
https://www.kango-roo.com/work/519/より
上図は、超速効型インスリンと持効型インスリンの効き方のイメージです。緑色の部分が「基礎分泌」を補う持効型インスリン(中間型インスリンは現在あまり使用されていません)、オレンジの部分が食後の「追加分泌」を補う超速効型インスリン(速効型インスリンは現在あまり使用されていません)です。
上図は、1型糖尿病・2型糖尿病におけるインスリン分泌不足のイメージです。赤線の1型糖尿病は(病状にもよるのですが)基礎分泌・追加分泌ともに出ないため、持効型インスリンを用いて基礎分泌、超速効型インスリンを用いて追加分泌を補う必要があります。このように、持効型インスリン・超速効型インスリンを併用するやり方を「強化インスリン療法」と呼びます。
一方、2型糖尿病は、追加分泌、基礎分泌がどう損なわれているかは患者さんによって違いがあります。患者さんによっては強化インスリン療法を行うこともありますし、患者さんによっては1日1回の持効型インスリンのみを使用し、食後の追加分泌は以前紹介したDPP4阻害薬やGLP-1受容体作動薬で補う、ということもあります。
また、最近は、持効型インスリンと超速効型インスリンを配合し、1回の注射で両者を使用できるインスリン(院内採用ではライゾデグがあります)や、持効型インスリンとGLP-1受容体作動薬を配合した製剤(院内採用ではゾルトファイがあります)が登場しており、患者さんの利便性の向上に一役買っています。
インスリン製剤は正しく使うことにより糖尿病治療において大きな武器になりますが、使用においては注意が必要です。
まず、超速効型インスリン・持効型インスリンいずれにも言えることですが、効き過ぎによる低血糖のリスクがあります。低血糖症状としては冷や汗、手の震え、空腹感、動悸などがありますが、実際に測ってみるのが一番ですので、原則としてインスリン注射をしている患者さんは自己血糖測定も同時に行うことが望ましいです。低血糖が頻発しているようであればインスリンの投与方法を見直す必要があります。
次に、超速効型インスリンは、前述の通り食事の直前に注射し、これから食べる食事による血糖上昇を防ぐものですので、食事とセットで注射することが必要です。例えば、普段は昼食前に超速効型インスリン10単位(インスリンを打つ量は「単位」と表現します)を注射しているが、今日は食欲がないので昼食を食べない・あるいはごく軽いもので済ませる、といった場合、普段通りの10単位を注射すると、インスリンの量が食事に対して多すぎるため低血糖のリスクがあります。1型糖尿病の患者さんなどで、一時的に上がりすぎた血糖値を下げるために食事と関係なく超速効型インスリンを打つケースはありますが、基本的にはこれから食べる食事量に見合った量を注射し、食後の血糖値の上昇を抑える、という考え方になります。
逆に、持効型インスリンは食事と関係ない血糖上昇に対抗するものなので、体調が悪く食事が満足にとれないので中止、としてしまうとかえって血糖値が上昇してしまうことがあります。食事がとれていないのにインスリンを注射して低血糖にならないのか?と不安になられると思いますが、そのような時こそ自己血糖測定を行い、適切な形でインスリン注射を継続することが重要です。