潰瘍性大腸炎の治療薬 JAK阻害薬について

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潰瘍性大腸炎の治療薬 JAK阻害薬について

皆様こんにちは。小金井つるかめクリニック 消化器内科の川上智寛です。

今回は難治例の治療薬の一つである、「Janus kinase(JAK)阻害薬」について解説したいと思います。

JAK阻害薬とは(一般名:トファシチニブ、商品名:ゼルヤンツ®)

2013年から関節リウマチで使用開始となり、2018年に潰瘍性大腸炎に適応追加となった薬剤です。

 

既存の治療では効果不十分な場合の中等症~重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持療法に用います。

 

潰瘍性大腸炎では過剰な免疫反応が関与していると考えられており、腸管の炎症に関わる炎症を引き起こす物質(=炎症性サイトカイン)の過剰な産生が原因といわれています。この炎症性サイトカインが免疫を担当する細胞に働きかけ、過剰に作られたサイトカインのせいで炎症を悪化させます。

 

トファシチニブは炎症の伝達経路であるヤヌスキナーゼ(JAK)-STAT経路に働きかけ、炎症性サイトカインを作ることを促す信号を抑えることで炎症の鎮静化をはかる薬剤です。

JAK阻害薬の使い方

1日2回の飲み薬(錠剤)ゼルヤンツ®(5mg)

 

寛解導入:1回2錠 1日2回 毎日服用

寛解維持:1回1錠 1日2回 毎日服用

 

寛解維持に移行して効果が弱まった場合や、抗TNFα抗体製剤が無効だった場合など過去治療で難治例であった場合は、1回2錠 1日2回に増量可能です。

 

注射の薬ではなく飲み薬という点が続けやすさにつながるかな、と個人的に思います。

 

※寛解:潰瘍性大腸炎の症状が落ち着き、普通の生活を送ることができる状態になること

※寛解導入:寛解に導くための治療(トファシチニブを用いる場合は通常2ヶ月間を寛解導入期とします)

※寛解維持:寛解の状態を維持していくための治療

JAK阻害薬の安全性

薬剤使用にあたって、特に注意が必要なものとして注意喚起されているものについて、以下が挙げられます。

 

・感染症(結核、肺炎、帯状疱疹)

・肝機能障害、B型肝炎ウイルスの再活性化

・白血球減少(リンパ球、好中球の減少)、貧血

・消化管穿孔

・コレステロールや中性脂肪の上昇

・血栓症

 

<血栓症について>

 

2019年7月に米食品医薬品局(FDA)が「心血管系事象のリスク因子を有する50歳以上の関節リウマチ患者を対象とした海外臨床試験」のデータからトファシチニブ1回10mgを1日2回服用している関節リウマチの患者で血栓症と死亡のリスク上昇が認められたと警告発表がありました。

 

それを受けて厚生労働省も2019年8月にトファシチニブの「重大な副作用」として“静脈血栓塞栓症”を追記し注意喚起を行っています。

 

静脈血栓症/肺塞栓症はいわゆるエコノミークラス症候群のことです。長い間同じ姿勢でいると足の静脈に血の塊(=深部静脈血栓)ができて、一部が血流にのって肺に流れつき肺の血管を閉塞させてしまう(肺塞栓)病態のことをいいます。

 

潰瘍性大腸炎に限らず、炎症が強い状況は血栓をつくりやすい事態になっているので、血栓のできやすいことが薬剤に起因するかどうかはいまだ明らかではありません。

 

少なくとも血栓症のリスクが上昇しうる薬剤である、という認識をもち、急な息切れや胸痛など血栓症を疑う症状に注意を払いうことと、もともと血栓症のリスクが高い方は他の薬剤の使用を考慮する必要があります。

 

特に、1回10mgの高用量を使用している時期については血栓症への注意が必要であると今のところ考えています。

 

潰瘍性大腸炎の患者さんに対してトファシチニブを用いた場合に本当に血栓症のリスクを高めるのか、現在検証が進んでいますので、結果が出次第ご説明致します。

 

<帯状疱疹について>

 

トファシチニブの臨床試験で多く発症した感染症が「帯状疱疹」です。

 

日本人成人の90%以上が帯状疱疹の原因となるウイルスが体内に潜んでいて、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹になるといわれています。

 

一般的に帯状疱疹は一生に1度の発症と考えられていますが、免疫抑制治療を行っている方の細胞性免疫が低下している状況だとウイルスの再活性化で発症を繰り返したり、重症化することが知られています。

 

顔や体の左右どちらかに神経に沿って帯状に広がる「赤いブツブツや水疱」ができます。症状の出始めのときはブツブツがはっきりせず、衣服でこすれるだけでもピリピリ・ヒリヒリするような感覚異常のみのこともあります。異変を感じたら、すぐに皮膚科受診をして対応してもらうようにお伝えしています。

トファシチニブ使用時における帯状疱疹を予防するには

トファシチニブの市販後調査では帯状疱疹の発症が高く、9.2人/100人・年という報告があり、帯状疱疹治療後にトファシチニブを再開すると、帯状疱疹の再燃を繰り返す可能性があることも指摘されています。

 

帯状疱疹ワクチン(シングリックス🄬)は50歳以上の方に帯状疱疹予防として適応のあるワクチンです。

 

不活化ワクチンであり、トファシチニブなどの免疫抑制剤を使用していても接種可能です、2回の接種で予防効果が得られます。

 

ワクチンの値段が高額であることがデメリットではありますが、当院でも接種は可能ですのでお知らせしておきます。

消化器内科のページはこちらです。

まとめ

  • * JAK阻害薬(トファシチニブ)は2018年に潰瘍性大腸炎に対して適応追加になった新規薬剤です。
  • * トファシチニブは1日2回の飲み薬で、服用しやすいメリットがあります。
  • * トファシチニブ服用時には、帯状疱疹等のウイルス感染症に注意が必要です。

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