皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。
今回は糖尿病治療薬の話はいったん休止し、血圧、脂質、糖尿病など、私が専門としている診療でよく話題に出る、「薬は一生飲まなくてはいけないのか?」について取り上げます。
私が外来でよく話す内容なので、私の外来に通院されている方であれば耳にしたことがある内容かもしれません。
外来で「血圧(血糖、脂質でもいいです)の数値が高いので、薬を飲んだ方がよいです」と医師が患者さんにお話しするのは、非常によくある光景です。患者さんによっては「そうですね、私も高いのが気になっていてそろそろお薬かと思っていました。お願いします。」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、中には「いや、薬は・・・」という反応をされる方もいらっしゃいます。
理由をお伺いすると、お薬代がかかる、内服が面倒くさい、など様々な理由がありますが、今回のテーマである「でも血圧の薬って、一度始めると一生なんでしょう・・・?」という反応を非常に多く耳にします。ちなみにこの反応は、血糖・脂質よりはなぜか血圧の薬で一番多く耳にする気がします。
この質問を受けた際、色々な答えが考えられると思いますが、私は上記の通り「飲んでいてちょうどいいのであれば、飲んでいた方が良いですが、数値次第で減量・中止できる可能性もあります」と返答します。以下、その答えの補足をいたします。
まず、血圧・血糖・脂質の薬のほとんどは、飲んでいれば数値は下がるが、やめるとその分上がってしまう、という性質があります。ですので、風邪薬などと異なり、5日間飲んだのでよくなったのでやめよう、としてしまうと、せっかくよくなっていた数値は基本的に元通りに戻ってしまいます。眼鏡・コンタクトレンズのように、装着していればよく見えるが、裸眼視力を良くするものではないので外すと見えない、ということと同じです。
また、そもそもの大前提として、血圧・血糖・脂質の治療の基本は食事運動療法です。血圧を下げるにあたっては、私は外来で「減塩・禁煙・節酒」と口酸っぱく申し上げています。脂質の数値を下げるには脂っこいもの、血糖の数値を下げるにはご飯・パン・麺などの炭水化物を摂りすぎないことや、お菓子・ジュースの類を控えめにすることが重要です。運動療法もいずれに場合においても有効です。これらを頑張っても数値が下がらない、あるいはこれらの治療がどうしてもうまく守れない、そういった場合に薬、となるのが一般的です。
さて、表題の通り、血圧・血糖・脂質の治療にはそれぞれ目標値があります。
https://dm-rg.net/contents/practice_qa/c6116f58-1930-4893-a743-275ed4222a36より
血圧の基準値は、2019年に診療ガイドラインの変更があり、目標値が厳しくなりました。75歳未満の患者さん、あるいは75歳以上でも糖尿病・慢性腎臓病・心臓や脳の血管系の病気があるなどリスクの高い患者さんであれば、家庭血圧125/75mmHg未満、病院での血圧130/80mmHg未満という目標値になっています。
血糖値の目標は、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)を上記のごとくキープするのが目標です(高齢者については別途目標値がありますが、複雑なのでここでは割愛します)。糖尿病のため合併症で体を悪くしないためには、ひとまずHbA1c 7.0%未満を達成することが重要です。余談ですが、私はHbA1cについて「たとえ話ですが、30を足すと体温になると思ってください。6台なら平熱、7台は微熱、8以上は高熱、という感じなので、まずは6台を目指しましょう」とよく説明しています。
脂質の目標は、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪で分かれています。まず、血管系の大病を起こすリスクがどのくらい高いか(タバコを吸うか、血圧が高くないか、血糖値は高くないか、など)を判断し、それに則り目標値が設定されます。もし既に心筋梗塞、脳梗塞、狭心症など血管系の大病を起こしていれば、「二次予防」に分類され厳しい目標値が設定されます。
以上のように、血圧・血糖・脂質はただやみくもに下げればいいというわけではなく、きちんとした目標値が存在しますので、もし達成不十分であれば、それに向けて生活習慣の改善や薬を飲むなどすることが望ましいです。そして、ここからが重要なのですが、逆に「目標値より大幅に低い、ここまで良くなくてもいい」という場合は、薬の格下げ・中止などを検討することができます。
上述の通り、血圧・血糖・脂質はいずれも食事運動療法、あるいはそれに伴うダイエットにより、薬に頼らず数値を改善させることができます。ですので、例えば、「現状血圧が160/100mmHgあり、減塩や禁煙、節酒、ダイエットもうまくいかず、このままでは体を壊してしまうリスクが高い」場合、まずは当座のリスク回避のために薬を飲んで下げることが望ましいですが、その後「心機一転、減塩を頑張り、禁煙を達成、酒の量も減らしダイエットした」という場合、薬の効果以上に血圧が下がることがあります。その結果、ここまで低くなくてもよい、という数値を達成できた場合、「ご自身の努力の甲斐あり薬の効果以上に血圧が下がっていますね。ここまで血圧が低くなくても良いですから、お薬を格下げしましょう」ということは非常によくあります。また、血圧は季節による変動もあり、一般的に暑い時期は低く、寒い時期は上がります。ですので、夏と冬で飲んでいる薬が違う、ということもよくあることです。
また、先日紹介したGLP-1受容体作動薬のように、糖尿病治療薬の中でも体重減少の期待できる薬があります。もし肥満に伴い血圧・血糖・脂質の数値が良くない糖尿病患者さんの場合、このような体重減少の期待できる薬を用いることで、ダイエットに伴い血圧・脂質の薬もろとも減らすことができる、というケースもよく経験します(私はよく「やせて根っこから良くなりましょう」と説明しています)。
重要なこととして、全ての患者さんでこのような薬の格下げが実現できるとは限りません。遺伝的・体質的にどうしても数値が下がりにくく、どんなに食事運動療法を頑張っても数値が高いやせ型の患者さんなどですと、逆に根を詰めすぎてやせすぎてしまったりしては本末転倒ですので、そこは体に無理のない形で適切に薬の力を借りて数値を下げ続けることがベストの治療である、ということもあります。また、「数値が良いので格下げ」があるなら当然「数値が悪いので格上げ」もあり得ます。あくまで、目標値に照らして薬が効きすぎか、あるいは不十分か、という点が重要ということです。
最後に、これらのような考えで診療を行うためには、医師が血圧・血糖・脂質の目標値を頭に入れていることが大前提です。我々糖尿病専門医・内分泌代謝専門医はその分野の専門家として各項目の治療目標値を熟知し、それに基づいた適切な治療を提案していますので、安心して受診していただければと思います。