大腸内視鏡検査における精度管理 〜その2 内視鏡抜去時間と検査精度〜

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大腸内視鏡検査における精度管理 〜その2 内視鏡抜去時間と検査精度〜

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。

 

前回のブログで「大腸内視鏡検査における精度管理」について概略をご説明しました。特に前回は、大腸腺腫性ポリープ同定率(ADR)について、詳しく解説をしましたが、今回はさらに一歩進めて、「大腸内視鏡検査における抜去時間」について解説致します。

 

なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。

 

大腸内視鏡検査における抜去時間とは

大腸内視鏡検査は、準備段階を含めて大きく以下の工程に分けられます。

 

  1. 1. 検査前日までの前処置(飲み薬の種類とその方法)
  2. 2. 検査当日の前処置(飲み薬の種類とその方法)
  3. 3. 検査本番(盲腸までの挿入と、盲腸から直腸への抜去)

 

実は、このいずれのステップも大腸内視鏡検査の質の指標(Quality indicator)となり得ることが報告されています。

 

今回は、Quality indicatorという視点に立って検査本番の部分についてご説明し、次回以降で検査前の前処置について詳細に解説したいと思います。

 

さて、検査本番は、まず肛門から大腸内視鏡を挿入し、大腸の一番奥である盲腸まで到達させます。この時点では大腸粘膜の詳細な観察は行わず、実際に細部を観察するのは盲腸から直腸にかけて抜去する際です。

 

最初に肛門から挿入した時点では、大腸の内腔は空気量が足りずにつぶれていたり、多少の便や腸管洗浄液(検査前に内服する下剤)の残りが存在しています。細部を観察するためには、十分量の空気(あるいは二酸化炭素ガス)を腸内に送り込んで内腔を拡張(送気)させ、便や腸管洗浄液の残りをきれいに洗って吸引する必要があります。

 

肛門から盲腸に挿入する際にこういった処置(送気や吸引)を行うと、腸がぱんぱんに張った状態になるため、非常に挿入しづらいのです。

 

このため、一般的には挿入時ではなく抜去時に大腸粘膜の観察をする、ということになります。

 

実は大腸内視鏡の挿入法には様々な流派があり、挿入時に送気を行う方法もありますが、当施設で行っている「軸保持短縮法」という挿入法の場合には、送気は最小限にして盲腸まで挿入します。軸保持短縮法は昭和大学横浜市北部病院の工藤先生の考案された挿入法ですが、とにかく挿入時の苦痛が少ないのが特徴です。軸保持短縮法については次回以降、詳しくご説明します。

 

大腸内視鏡検査における抜去時間とは、盲腸→直腸にかけて十分に腸管内腔を拡張させて、詳細に観察を行う時間の総計、ということになります。

 

抜去時間とADRの関連

抜去時間はすなわち大腸粘膜の観察時間ですから、長く観察すればするほど、大腸ポリープの発見率は増加するのでは?という疑問のもと、これまで様々な研究がされてきました。

 

抜去時間とADRの関連性は、2006年にBarclayらによって初めて報告されました(参照1)。Barclayらは、抜去時間の平均が6分未満だった医師と、平均6分以上だった医師に分けてADRを比較したところ、それぞれADR11.8%28.3%と大きく差がついたことを示しました。

 

参照1Barclay et al. Colonoscopic withdrawal times and adenoma detection during screening colonoscopy. New Engl J Med. 2006.

 

その後も多くの追試がなされ、「抜去時間66.5分程度」が十分なADRを達成するために不可欠な観察時間であることが示されています。当院でも、抜去時間の違いによりADRは大きく変化することを報告し、先日「総合健診医学会雑誌 Health Evaluation and Promotion」に掲載されました(参照2)。

 

参照2Ishibashi et al. The relationship between withdrawal time and adenoma detection rate in a screening colonoscopy for medical check-up. Health Evaluation and Promotion. 2020.

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhep/47/4/47_527/_article/-char/ja/

(和文です)

 

この報告では、9名の医師を対象にADRと抜去時間の調査を行い、抜去時間とADRに正の相関があることを明らかにしました(相関係数:0.883)。ちなみに、最もADRが高かった検査医師はADR 42.9%で、平均抜去時間は8.2分でした。

 

強調したいのは、ポリープが見つからなかった時の抜去時間とADRの間には相関があったのですが、ポリープを見つけて治療した場合の抜去時間とADRの間には相関がなかった、という点です。ポリープが見つからなった時の抜去時間は、普段どれだけ注意して観察しているかを反映した時間です。いかに、普段の検査から抜去時間を意識するのが重要か良く分かります。

 

検査医師に抜去時間を長くするよう指導するとADRは改善するのか

抜去時間とADRの間に相関があるのであれば、抜去時間に一定の時間をかけるよう内視鏡医師を教育できれば、ADRを高いレベルに維持できるのではないか?

 

この疑問に対して、これまで多くの研究がされてきました。すなわち、内視鏡医師の教育方法についての研究です。

 

抜去時間を一定以上(具体的には6分以上)に維持するための教育方法として、検査成績をフィードバックする方法(後ろ向き)と、検査時に抜去時間をモニタリングする方法(前向き)が考えられます。

 

当院では、この「成績のフィードバック」と「モニタリング」両方を同時に行い、効率よく内視鏡検査医師の教育を行う方法を開発し、先日Surgical Endoscopyという国際科学雑誌に受理されました(参照3)。

 

参照3F Ishibashi et al. Individual feedback and monitoring of endoscopist performance improves the adenoma detection rate in screening colonoscopy: a prospective case-control study. Surg Endosc. 2020.

 

https://link.springer.com/article/10.1007/s00464-020-07672-8

(こちらは英文です)

 

この研究では、もともと抜去時間が短かった検査医師(平均5.55分)に対して、成績のフィードバックと、その後の抜去時間のモニタリングをしたところ、抜去時間は平均7.72分に改善し、ADR13.4%から31.1%に改善することを示しました。

 

研究期間は、フィードバック前が3ヶ月、フィードバック後が4ヶ月で、非常に短い期間のうちに成績の向上を確認できたことが重要です。

 

内視鏡検査は非常に高度な技術を要しますが、簡単な教育方法でこれだけ検査成績は変わり得るのです。当院では、患者さんの不利益にならないように検査の質を維持する努力を続けています。

 

次回は、大腸内視鏡検査時に必要な技術である「挿入法」について詳しく解説したいと思います。

 

内視鏡センターのページはこちらです。

まとめ

  • * 大腸内視鏡検査時の抜去時間は観察時間と同義である。
  • * 抜去時間が長いほど、検査の質の指標である腺腫性ポリープ同定率(ADR)は向上する。
  • * 検査医師に対し、検査成績のフィードバックと抜去時間のモニタリングを行うことで、抜去時間とADRの改善が可能である。

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