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災害時の糖尿病治療・シックデイについて

 新年あけましておめでとうございます。小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回は災害時における糖尿病治療について解説します。

シックデイについて

 まず、この度202411日に発生した、令和6年能登半島地震において被災されました方々にお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた皆様に謹んでお悔やみ申し上げます。

 阪神淡路大震災、東日本大震災をはじめ、日本は地震大国とも呼ばれるくらい地震の多い国です。首都圏直下型地震・南海トラフ地震などもいつ起きるか、と言われており、備えあれば憂いなし、という言葉もありますが、日頃から防災意識を高めておくことの重要性を改めて認識させられます。

 まず、本題に入る前に「シックデイ」という概念について説明させてください。「sick day」という言葉が指す通り、直訳すれば「体調が悪い日」とでもなりますでしょうか。もう少し詳細に言うと「糖尿病患者さんが発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などで食事摂取が困難になっている場合」と定義されます。つまり、「ちょっとのどが痛くてだるいけど熱はそんなに高くないし、食事は普段通り摂れる」状態はシックデイに該当しません。「コロナ・インフルエンザにかかり39-40℃の高熱や激しいせき込み・痰絡みがあり、食事はとてものどを通らずジュースやゼリーがやっとだ」「おなかを壊して頻繁に下痢・嘔吐があり、食事もままならないどころか水を飲んでもすぐに吐いてしまうくらいだ」といった状態をイメージしてください。

 シックデイ時における糖尿病治療の注意点がいくつかあります。まず、シックデイ時に投与中止を考慮すべき薬があります。

 

メトホルミン(メトグルコ®など)脱水に伴い乳酸アシドーシスという副作用のリスクが高まるため内服を避けるべきです。

 

SGLT2阻害薬(ジャディアンス®、フォシーガ®など)食事摂取不良時に内服するとケトン体という物質が体内で増え、ケトアシドーシスという合併症のリスクが高まります。また、尿に余分な糖を排泄する薬のため、脱水を助長するリスクがあり内服を避けるべきです。

 

GLP-1受容体作動薬(リベルサス®、オゼンピック®など)→胃の中の食べ物の排泄を遅らせることによる食欲抑制作用があり、食欲がない時に投与すると吐き気が増すなどのリスクがあります。

 

SU薬(アマリール®など)、グリニド薬(グルファスト®など)グリニド薬は、これから食べる食事により血糖値が上昇するのを防ぐため食直前に内服する薬なので、食事が摂れないのであればそもそも内服すべきではありません。SU薬については、食事量が少ない時に内服すると低血糖のリスクがあるのですが、食事の代わりにジュースやゼリーを摂取しているのであればそれによる血糖上昇が見込まれるため、必ずしも一律で中止が必要というわけではありません。手の震え、冷や汗、動悸などの低血糖症状があれば中止を考えるべきです。

 

 普通食事が摂れない場合薬どころではないと思うのですが、真面目な方で「薬だけは!」という方もいらっしゃいますので、日頃から「これは調子が悪い時は飲まない方が良い薬」と意識しておくとよいと思います。ただ、実際問題「薬がたくさんあってどれがなんだか区別がついていない、色と粒数くらいしか覚えていない」という方もいらっしゃいますので、そのような場合は「食事が摂れない場合薬は飲まない、摂れるようになったら再開」でもよいのかもしれません。ただ、患者さんによっては「調子が悪い時でもこの薬だけは飲み続けてほしい」という薬があるかもしれませんので、折に触れて主治医に確認しておくことをお勧めします。

 インスリンを使用している方にとってもシックデイ対策は重要です。以前解説した通り、インスリンにはこれから食べる食事で血糖値を上げないために打つ「超速効型」(ヒューマログ®、ノボラピッド®など)と、食事に関係なく1日を通しての血糖値を整える「持効型」(ランタス®、トレシーバ®など)があります。食事が全く摂れない場合超速効型は打つ必要はありませんが、持効型まで中止してしまうのは危険です。体調不良時にはストレスホルモンなどによる血糖上昇も見込まれ、思わぬ形での高血糖を招くことがあります。インスリンを使用されている方の多くは血糖測定器をお持ちかと思いますので、普段以上に自身の血糖値に敏感になっていただき、「食事も満足にとれていないのに血糖値は普段と同じかそれ以上に高いから、持効型は普通に打とう」「食事が摂れておらず血糖値は普段より少し低めだから、持効型は半分の量で打とう」「食事は摂れないけど口当たりの良いゼリー・プリン・ジュースなら摂れるが、何もしないと血糖値が上がってしまうだろうから超速効型のインスリンを普段の1/3の量打ってから食べよう」のように、ケースバイケースの調節が必要です。迷うようでしたらかかりつけの医院に一報することを勧めます。

 余談ですが、外来で「先日風邪をひきました」とおっしゃる方が血糖値の悪化を起こしている場面によく遭遇します。その際、シックデイに相当するほどの風邪でもなさそうなのにスポーツドリンクや栄養ドリンクをがぶ飲みしました、というコメントが聞かれることがあります。食事が概ね普段通りに摂れる場合にこれらを追加で摂ってしまうといらぬ血糖上昇を招きますので、あくまで食事が満足に摂れない場合の補助、と考えてください。また、シックデイの際も、極力お粥やうどんなどの食事に類するもの、難しい場合でもスープ、アイスクリーム、ゼリーなどを摂取いただき、ジュースやスポーツドリンクを多飲することはなるべく避けるべきと思います。

シックデイについて

災害時の糖尿病治療について

 当院は郊外と言えど東京にあるクリニックであり、交通の便は比較的良いですので、大地震があったとしても交通が寸断される、物資の供給が完全に途絶える、というシチュエーションは強くは危惧されませんので、災害時の備えは居住地のアクセスによるところも大きいと思います。しかし、先述の通り備えあれば憂いなし、ということでしっかり対策を立てましょう。

 まず、薬の予備を持っておくことを勧めます。私の外来ではお薬の予備を定期的に確認することにしていますが、災害に限らず体調不良で受診できない時などに備えて1週間~10日分くらいの薬の予備を持っておくとよいと思います。

 また、お薬手帳は必ず持っておきましょう。かかりつけの医療機関にアクセスできない、電話もつながらない時、自身のお薬の内容を正確に伝えることのできるツールです。

 薬の使い方については上記のシックデイ時の注意点に準じてください。避難所生活を強いられ、飲料水が不足し脱水のリスクがある、食事量が普段と変化しインスリン使用量の変更を検討すべきである、などのシチュエーションが想定されます。また、不衛生なトイレの使用、入浴の制限なども想定されますが、尿に余分な糖を逃がすSGLT2阻害薬を内服中の場合、特に女性で陰部・性器感染症のリスクが高まりますので、中止を検討すべきです。逆に、災害時でも自宅で概ね通常通りの生活が送れている、避難所生活ではあるが飲食・衛生面ともに大きな問題はない、という場合、普段の糖尿病治療をそのまま継続してもよいと思われます。

まとめ

  • *食事が摂れないくらい具合が悪くなることをシックデイと呼び、糖尿病治療において内服薬やインスリンの調整が必要になることがある
    *災害時はシックデイ対策に準じ治療を調節すべきだが、個々人の置かれた環境によるところも大きく対応はケースバイケースである

糖尿病代謝内科のページはこちらです。


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