皆様こんにちは。小金井つるかめクリニック 消化器内科の川上智寛です。
今回は治療薬シリーズの続きです。「抗α4β7インテグリン抗体製剤」についてご説明します。
2018年7月に潰瘍性大腸炎に適応追加となった薬剤です。
中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療および維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)に用いられます。
潰瘍性大腸炎に限らず、Crohn病も2019年5月に適応追加になりました。
(欧州や米国では2014年に承認)
インテグリンはintegrate(結合する)という英単語の通り、細胞同士を接着するときに関与する細胞接着因子です。
インテグリンは白血球の表面に発現していて、白血球が接着・遊走する際に働くものです。白血球の一種であるTリンパ球の表面に発現しているα4β7インテグリンが腸管の血管内皮に選択的に発現しているMAdCAM-1に接着することで消化管や腸管に関連するリンパ組織へTリンパ球が移動する際に関与します。
ベドリズマブはα4β7インテグリンに対する抗体であり、α4β7インテグリンとMAdCAM-1が接着することを阻害し、Tリンパ球が腸管へ移動することを抑制し炎症を軽減します。
潰瘍性大腸炎の病態において、腸管粘膜でTリンパ球が炎症を引き起こす中心的な役割を果たすことが示されてきました。ベドリズマブは、炎症を引き起こすおおもとであるTリンパ球を腸管に集めさせない、という発想で開発された薬剤です。
前回までのブログでご説明してきた抗TNF-α抗体製剤は、炎症を惹起するための細胞同士の連絡を遮断するもの、JAK-2阻害剤は細胞内の炎症惹起のためのシグナルを阻害するものであり、ベドリズマブは根本的に作用機序が異なるもので、その分効果の現れ方が異なります。
具体的には、抗TNF-α抗体製剤やJAK-2阻害剤と異なり、腸管のみで効果を発揮する(腸管選択性が高い)という点が最も大きな利点です。
1回 約30分以上の時間をかけて点滴投与を行います。
投与スケジュールは、「初回→2週間後に2回目→2回目から4週間後に3回目→以降は8週間ごと」となります。
※ベドリズマブの皮下注製剤も現在日本でも承認申請中です。今後、点滴以外でも使用可能になると思いますが、今の段階(2020年10月現在)日本では点滴製剤のみが使用可能です。
国内臨床試験での頻度は3.6%でした。添付文書でも投与中および投与2時間以内に発現するアナフィラキシーやInfusion reactionに十分注意するように注意喚起がされているため、慎重な経過観察をしながら投与を行う必要があります。
肺炎、敗血症、結核、リステリア、サイトメガロウイルス、日和見感染などへの注意喚起がされていますが、腸管に選択的に作用するため「局所的」な免疫抑制と考えると全身への免疫抑制作用は限定的と思います。
そういった意味で抗TNF-α抗体製剤と比較して安全性は高いといわれています。
PMLは多くの人に潜伏感染しているJCウイルスが、免疫力低下の状況で再活性化して引き起こされる中枢神経系(脳)の感染症です。麻痺や認知機能障害など症状が初発症状としてあらわれます。JCウイルスに対する治療はなくしばしば致死的となりますが、日本での発症頻度は0.9人/1000万人と非常に稀です。
多発性硬化症という病気の治療薬である「ナタリズマブ」投与中にPMLを発症した症例の報告があります。ナタリズマブはα4β1インテグリンとVCAM-1を阻害する薬剤であり、インテグリンの阻害薬であるという意味で同一作用機序の薬剤になります。
ただ、ベドリズマブは腸管に選択的に作用するため中枢神経系へのリスクは低いと考えられています。
ベドリズマブの国内外の臨床試験ではPMLの報告はありませんが、海外で販売後にベドリズマブの投与によるかどうか明らかでないもののPMLの発現が報告されています。
ベドリズマブは作用機序からいうと炎症の原因となっている供給源を減らすものです。
「ガスの元栓を閉める」ような感覚でしょうか。あまりに火(炎症)の勢いが強ければ、それだけでは鎮静化することは難しくなりますし、個人的な感想ではありますが、鎮静化まで若干時間がかかるかなという印象があります。
ベドリズマブを選択するとすれば、「ステロイドの使用でも十分活動性がコントロールできない中等症」がいい適応になると今の現状では考えています。
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