皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。
前回のブログに引き続き、大腸内視鏡検査にまつわる最新の話題をご説明したいと思います。今回は、「大腸内視鏡の新しい前処置法の開発」について、先日Surgical Endoscopy誌(Impact factor: 4.584)という国際科学誌に受理された論文の報告を兼ねてご説明したいと思います。
大腸内視鏡検査を行うためには、前処置とよばれる準備が必要です。
日本では、検査の前日あるいは数日前から刺激性下剤を内服した上で、検査当日に1〜2L程度の等張あるいは高張液の下剤を内服し、排便が完全に透明になった状態で検査を開始します。前処置についての詳しい説明は以前のブログをご参照ください。
以前のブログでも解説した通り、検査当日に内服する1〜2L程度の等張あるいは高張液の下剤(多くはポリエチレングリコール製剤というもの)については、これまで多くの製品が開発されており、味の工夫や飲みやすさの工夫がなされてきました。10年、20年前に比較すればずいぶん選択肢も増えたと思います。
一方で、検査の前日あるいは数日前から内服する刺激性下剤については、日本ではこれまでセンノシド(プルゼニド®️、アローゼン®️)という植物由来の顆粒製剤や、ピコスルファート(ラキソベロン®️)という液体の下剤が使用されてきましたが、この30年ほど画期的な新製品というものは開発されていません。つまり、検査の前日あるいは数日前から行う前処置法に関しては、日本で一般的に大腸内視鏡検査が行われるようになってからは全くといってよいほど変化がないということです。
この前処置法に変更がなかったのは、それだけ有効性が高い(=当日きれいになりやすい)からですが、一定の頻度で下剤の内服により腹痛や嘔気が発生することがあります。しかも、検査前日のみの内服できれいにならない方の場合は、最大で検査前5日前から刺激性下剤を飲んでいただく必要があり、その分腹痛を伴う機会が増えます。この副作用は非常に厄介で、腹痛が出ることを忌避して大腸内視鏡はもう受けたくないという方も存在します。
また、欧米では、検査前日の前処置法として刺激性下剤を飲むのは一般的ではなく、検査前日から当日と同じように1〜2Lのポリエチレングリコール製剤を飲むことが多いのですが、日本で同様の手法は受け入れ難く定着しなかった側面もあります。
そこで私たちは、欧米式のポリエチレングリコール製剤による前処置と旧来日本で行われてきた内服調整法を組み合わせた新しい前処置法を開発し、その有効性を検証しました。
この手法には、モビコール®️という日本で新たに使えるようになった便秘治療薬を使用します。
新しい前処置法は、検査の3日前から超低容量のポリエチレングリコール製剤(モビコール®️)を毎晩120mL飲んでいただき、検査当日は通常のポリエチレングリコール製剤(ニフレック®️)を2L内服していただくという手法です。
開発した新しい手法の有効性・安全性を評価するために、日本で従来行われている刺激性下剤との比較試験を行いました。試験デザインは、ランダム化比較試験と呼ばれる方法で行い、エビデンスレベルの高い研究となっています。
この研究結果は、Surgical Endoscopy誌(Impact factor: 4.584)という国際科学誌に先日受理されました。
実際の大腸内視鏡検査時にどれくらい大腸の中がきれいになっているか評価するためのスケール(BBPS:Boston Bowel Preparation Scale)を使用して、新規前処置法と、従来の手法の比較を行いました。
BBPSは、大腸全体を3箇所のセグメントに分けて、それぞれで3点満点で評価します。3がもっともきれい、0が汚い状態です。すなわち、3セグメントの合計の9点が最高点となります。BBPSの合計点が6点以上であれば良好な前処置状態と言えます。
新規前処置法を用いた群と、従来の手法を用いた群で、何%の方がBBPS合計点6点以上であったかを比較しました。
結果は、新規前処置法群で56.6%、従来の手法の群で50.8%であり、統計学的には両群で差はないというものでした。すなわち、モビコール®️を用いた新規前処置法は、従来の方法と同等の有効性があると言うことができました。
モビコール®️は刺激性下剤ではなく、腸に水分をとどけることで自然に排便を促すことを目指した浸透圧性下剤という種類の下剤です。このため、刺激性下剤特有の腹痛などの副作用が生じる頻度が低いことが特徴です。
今回の研究で二番目の目的としたことは、従来の刺激性下剤を用いた前処置法に比べ、モビコール®️を用いた新規全処置法は、腹痛などの副作用が少ないということを示すことです。
結果です。刺激性下剤を3日間完全に内服できた方は全体の82.8%であり、一方で新規前処置法群では3日間完全に内服できた方は全体の93.4%でした。3日間飲み切ることができなかった理由は、腹痛や嘔気などの副作用が出現してしまったためですが、実際に腹痛が出現した頻度は、従来の刺激性下剤を用いた群で14.8%、モビコール®️を用いた新規前処置法群では0%でした。
以上の結果より、モビコール®️を用いた新規前処置法は、従来の刺激性下剤を用いた前処置法に比べ、副作用が少なく安全性が高く、かつ忍容性も高いということが言えました。
現在当院では、大腸内視鏡検査の前処置時に、実際にモビコール®️を使用することで安全かつ有効に検査準備が可能かどうか、外来で実証を行っている最中です。これまで刺激性下剤で腹痛などが出てつらい思いをした方など、ご興味がございまいしたら当院の外来でご相談ください。