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慢性便秘症の治療薬

小金井つるかめクリニックの川上智寛です。

前回のブログで新しく発刊された便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症に基づいて慢性便秘症の総論についてお話しました。

今回は治療にフォーカスして解説しようと思います。

治療

生活習慣(食生活や運動など)の改善、摘便などの理学的治療、薬物治療が用いられます。内服の治療には数種類の異なった作用機序の薬剤が用いられています。坐剤は直腸に挿入後、速やかに溶解して炭酸ガスを発生し、直腸壁を直接刺激することにより便の排出を促します。浣腸は直腸に物理的刺激をあたえ、蠕動を高めることで排便を促します。保存的加療では症状が改善せず、かつ便秘の病態評価により適応がある場合には直腸瘤修復術などの外科的治療が行われる場合もありますが適応になるのは限定的です。

内服薬について

  • 基本的な治療の流れ

「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬or胆汁酸トランスポーター阻害薬」

 

今回のガイドラインでエビデンスレベルA 、推奨度 強と位置付けられたものは以下の3種類の薬剤です。

浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、ポリエチレングリコール[PEG

上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)

胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)

これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが提示されました。

内服薬について

今回のガイドラインでエビデンスが十分でないと判断されたものは以下の種類です。

「プロバイオティクス」

「膨張性下剤」

「消化管運動機能改善薬」

「漢方薬」

これらは代替・補助治療薬として記載されています。

 

「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療(頓服、頓用)であることが明記されています。

今回は推奨度「強」エビデンスレベル「A」として記載された3種類の薬剤について触れておきます。

浸透圧性下剤

塩類下剤(酸化マグネシウム)

浸透圧により腸壁から水分を引っ張って便をやわらかくして緩下作用を示します。昔から使われている歴史も長い薬剤なので小児や妊婦にも安全に使用できますが、臨床試験データがありません。

※高Mg血症に注意

※酸化マグネシウムは胃酸・膵液の作用ののち効果を発揮するため、逆流性食道炎などで処方されることの多い酸分泌抑制薬によって作用減弱をきたことは注意が必要です

 

ポリエチレングリコール(PEG):モビコール®

海外では古くから慢性便秘症治療の推奨度上位に位置付けられている薬剤です。腸の中の電解質バランスを維持するため、塩化ナトリウムなどが添加されています。水に溶かして服用するが、ちょっとしょっぱいので味付きの飲み物がおすすめされています。2歳以上から服用可能です。PEG製剤はほとんど吸収されないため、併用注意や慎重投与はない点も安心です。

 

糖類下剤(ラクツロース)

吸収されない糖分の浸透圧の効果で水分を引っ張ってやわらかくします。

ラクツロースはこれまで慢性便秘症の保険適応はありませんでした。(適応: 高アンモニア血症に伴う症候の改善、産婦人科術後の排ガス・排便の促進、小児における便秘の改善)

 

ラクツロースを成分とするラグノスNF経口ゼリー®︎が2018年9月に慢性便秘症の効能効果を取得しました。

ラクツロースは海外において便秘症の標準治療薬として使用されており、米国消化器病学会AGAの便秘診療ガイドラインではマグネシウム製剤が推奨度Bにとどまっているのに対し、ラクツロースは推奨度Aになっています。(米国などの海外で浸透圧性下剤の主流はラクツロースとポリエチレングリコール(PEG)です)

 

今回のガイドラインでは「マグネシウム製剤は、高齢者や腎機能低下者には注意し血清マグネシウム値をモニタリングする。糖類下剤のラクツロース製剤とPEGは、従来薬を投与した後、効果不十分の場合に投与可能である。」と記載されています。ということは、まず酸化マグネシウムを使ってねダメだったら“PEGやラクツロース使ってみてねというのがガイドラインに準じた流れです。

粘膜上皮機能変容薬

  • 最近にでた新しいタイプの薬です。

     

    ルビプロストン:アミティーザ®

    腸粘膜上皮細胞のClチャネルを活性化し、腸管内にClイオンを分泌して水分分泌を促します。妊婦さんに禁忌になっています。若年女性に悪心の副作用が起きやすく副作用への注意が必要です。基本の内服量は24μg12回ですが、12μgのカプセルも発売され、副作用が強くでる場合の調整がしやすくなりました。

     

    リナクロチド:リンゼス®

    腸粘膜上皮細胞のグアニル酸シクラーゼc受容体に働きかける薬でこの受容体を活性化させることで環状グアノシン一リン酸(cGMP)の量を増やします。それによりClチャネルを活性化させ腸管内にClイオンが分泌され、水分の分泌を促しやわらかくします。c GMPにより腸管粘膜下の感覚神経を抑制し、内蔵感覚過敏を改善させる作用もあります。結構、効きがよく副作用は下痢が多いです。基本の内服量は0.5mg11回ですが、0.25mgに減量することで調整することも可能です。

     

    胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット 2018年):グーフィス®

    胆汁酸はコレステロールの調整や脂質の消化・吸収に関わります。胆汁酸は肝臓で合成され、胆嚢に蓄えられます。食べ物が入ってくると胆嚢が収縮し、十二指腸に分泌されます。胆汁酸の9割は回腸(小腸下部)で再吸収され再利用されます(腸管循環)。

     

    胆汁酸トランスポーター阻害薬であるエロビキシバットは回腸での胆汁酸の再吸収を一部抑制し、腸管内の胆汁酸量を増加させます。胆汁酸が大腸内に入ると、Clイオンの分泌が促され、水分分泌が起こり便をやわらかくします。また大腸の感覚神経に作用し蠕動をおこします。

     

    胆汁が分泌される前に内服しないと効果が期待できないので、食前投与が必要です。副作用として頻度が高いものは「腹痛」です。蠕動を惹起する作用があるのでお腹がグルグル動いて痛みを感じることが多い印象です。

     

    新規便秘薬として発売されて間もないルビプロストンやリナクロチド、エロビキシバットは今のところ効果についてさまざまなメタアナリシスの検討でも同等であると報告されています。各薬剤による特徴や起きうる副作用の違いを考慮して薬剤選択していくことになります。

    最後に薬価について触れておきます。(2023年現在)

    酸化マグネシウム(250mg-500mg

    5.7円/

    モビコールLD

    70.5円/包

    モビコールHD

    125.5円/

    ラグノスNF経口ゼリー分包 12g

    42.5円/

    アミティーザカプセル12μg

    52.6円/カプセル

    アミティーザカプセル24μg

    105円/カプセル

    リンゼス 0.25mg

    73.4円/

    グーフィス 5mg

    89.2円/

     

    新規薬剤のアミティーザカプセルやリンゼス、グーフィスは1日用量だと約100-200

    モビコールLD2-4/日程度で使用することが多いと思うので141-282

    モビコールHDLD2包分なので1-2/日で計算すると125.5-251

    ラグノスNF経口ゼリーは124gなので、85

     

    酸化マグネシウムは最大量が12gまでなので最大使ったとしても22.8-45.6円。

    圧倒的に酸化マグネシウムが薬価は安く抑えられます。

    新規薬剤はやっぱり高めに設定されています。

     

    腎機能が悪いなど高Mg血症の懸念がなければガイドライン通り、酸化マグネシウムを第一選択にして、効果をみて他の薬剤を併用したり、切り替えたりして調整していくことになるでしょう。

内視鏡センターのページはこちらです。

まとめ

*エビデンスレベルの高い便秘薬は、浸透圧性下剤、上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬に大別される
*薬価の面では古くからある酸化マグネシウムに分があり、患者さんの状況に応じて各種薬剤を併用したり切り替えていく

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