皆様こんにちは、小金井つるかめクリニックの深石貴大です。
今回は巷で少しだけニュースになっている、糖尿病の名称変更案について取り上げます。
そもそもこれまでも病気の名称変更はたびたび行われてきました。例えば「認知症」は昔「痴呆症」と言われていましたが、現代の感覚では「痴」や「呆」という漢字を病名に入れるのはどうなのか、というのは頷ける話です。また、「統合失調症」は昔「精神分裂病」という、なかなかにおどろおどろしい名前が付いていました。
さて、今回「糖尿病」という病名を変更しようという動きが、日本糖尿病学会・日本糖尿病協会を中心になされています。
その新しい病名の候補は「ダイアベティス」といいます。糖尿病を英語で表記すると「Diabetes」になりますので、日本語読みに直したものと思われます。
今回の名称変更の発端となった一番の要因は、糖尿病という疾患が世間から向けられがちな偏見・差別の目が大きいと言われています。私が2021年12月に執筆した「糖尿病にまつわる『偏見』について」も宜しければご覧ください。
さて、この名称変更に対して、下記のような意見が集まっているようです。
・不潔なイメージが不快
・排泄(はいせつ)物が名前に入っている
・怠惰な生活のイメージがつきまとっている
・甘いものの食べ過ぎによる病気と思われている
(日本糖尿病協会の調査結果から)
これを読むと、「糖尿病」という病名から連想されるイメージが良くない、という意見の他に「尿」という排泄物の名前が入っており、不潔・不快であるという意見が含まれています。
確かに、糖尿病の診断は血糖値からなされるものであり、尿糖はあくまで血糖値が高くなることによって生じるもので、本質的な情報ではありません。また、糖尿病と言えど血糖値がそれほど高くなければ尿糖が生じることはありませんし、「糖尿病=尿に糖が出ている病気」というイメージが生じているとすれば、医学的に適切ではないと思われます。
変更後の名称は様々な候補があったようですが、高名な権威ある複数の医師による議論により「ダイアベティス」に落ち着いたようです。
さて、名称変更の動きがあり、変更後の名称は「ダイアベティス」になりそうだというところまで分かりましたが、果たして普及するでしょうか。
糖尿病の新呼称案は英語の「ダイアベティス」…専門家「普及難しいのでは」(讀賣新聞オンライン)
だいたいこのような新しい動きは皆が慣れないうちは快く受け入れられないことが多く、私個人としても「うーん?」という感じもします。以下私見です。
まず、あまりに「糖尿病」という名称がメジャーであるため、「ダイアベティス」へ変更となったとしても「要は糖尿病のことでしょ?」となりそうな気がします。
また、お年寄りやカタカナが苦手には非常に呼びにくそうな名前ですね。「えっと・・・ダ・・・なんだっけ?」となりそうです。
また、既にクリニックの名前が「○○糖尿病内科クリニック」のようになっている場合、クリニックの名称も変更しなければいけないのだろうか?という疑問も生じます。
単純に血糖値が高いことを表現するのであれば、「高血圧症」にならって「高血糖症」などでも良い気がしますし、通じやすそうな気がします。
とは言え、「ダイアベティス」の普及に向けて着々と色々な動きが生じているようです。毎年11月14日は「世界糖尿病デー」なのですが、2024年は「World Diabetes Day」と英語表記になっていました。また、「日本糖尿病協会」も団体名を「JADEC」(Japan Association for Diabetes Education and Careの略)に変更する流れになっているようです。
決定事項に不満を述べても仕方ないので、ポジティブなことを考えてみましょう。
なぜこのような名称変更の動きがなされたかというと、やはり糖尿病という病名ゆえに患者さんが不当に向けられている差別・偏見の目を少しでも是正したい、という思いによるところが大きいのです。2021年12月に執筆した「糖尿病にまつわる『偏見』について」でも記載した通り、「だらしなく自己管理ができない人が病気」「太っている人がなる病気」のような医学的に適切とは言えない認識を持たれるだけではなく、糖尿病の持病があるというだけで、仮に真面目に定期通院し数値を良好に保っていたとしても住宅ローンや生命保険の判定において不利な扱いを受けるなど、本来被るべきではないと思われる不利益を糖尿病患者さんが受けているのはやはり事実ではないかと思います。
言葉狩りのような風潮は感心しませんが、「糖尿病」という病名が変更となることで仮にこのような不利益が是正されるのであれば、当初は受け入れが難しかったとしても長い目で見れば意味のある動きだった、というようになるのではないでしょうか。