皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック 糖尿病内科の深石貴大です。
今回は、2023年11月ブログの続きとして、高血圧症の治療薬について解説します。
治療薬の話を始める前に、簡単に「二次性高血圧症」について説明します。二次性高血圧症とは、血圧を上げるホルモンの作用が体の中で強くなりすぎてしまうために起こる高血圧症のことで、加齢や塩分の摂りすぎなどで起こる高血圧症とは異なります。具体的には「原発性アルドステロン症」「クッシング症候群」「褐色細胞腫」などが該当します。
「50歳を超えたころからだんだん健康診断で怪しい数値が出てきた」などであれば普通の高血圧かな、と思いますが(医学的には「本態性高血圧症」と呼びます)、若い頃から血圧が高かった、少し前までは何ともなかったのに最近上の血圧が180や200など異常に高い数値が出るようになった、などの場合は二次性高血圧症を考慮し、血液検査を行うことがあります。
また、少し話はずれますが睡眠時無呼吸症候群という疾患でも高血圧症を合併することがあり、治療により降圧が見込めます。
まず復習になりますが、前回記載した通り、薬に頼らず血圧を下げるには「減塩・禁煙・節酒」の実践が重要です。しかし、それでも血圧が目標値まで下がらない、という場合は、内服薬の使用を考えます。
まず、「カルシウム拮抗薬」と呼ばれる種類の薬です。院内採用薬ですと、アムロジン・アダラートCR・コニール、などがあります。血管拡張作用により血圧を下げるポピュラーな薬で、多くの方に処方されています。
次に、「ACE阻害薬」「ARB」と呼ばれる種類の薬です。「レニン・アンギオテンシン系」という、血管を収縮させて血圧を上げてしまう体内の仕組みを邪魔することで、血管を拡張し血圧を下げます。院内採用薬ですと、ACE阻害薬はタナトリル、ARBはニューロタン、ブロプレス、ディオバン、ミカルディス、アジルバなどの採用があります。こちらもポピュラーな薬で多くの方に処方されていますが、腎機能やカリウムの数値に変動が生じることがあり、適宜確認が必要なケースもあります。また、ACE阻害薬には空咳の副作用が生じることもあります。
また、上記のカルシウム拮抗薬と組み合わせて使用することもありますが、「合剤」と呼ばれる、1錠の中にARBとカルシウム拮抗薬の成分をミックスさせて飲みやすくした薬もあります。院内採用薬ですと、ミカムロAP、ザクラスHD、アイミクスHDなどがあります。
また、「ARNI」と呼ばれる、ARBに「ネプリライシン阻害薬」という成分をミックスさせた薬もあります。ネプリライシン阻害薬は、「ナトリウム利尿ペプチド」という降圧作用のあるホルモンの濃度を高め、ARBの成分と合わせて血圧を効果的に下げます。エンレストという名前の薬が院内採用されています。
Langenickel TH, Dole WP: Drug Discov Today Ther Strateg. 2012; 9(4): e131-e139 より
次に、体内の余分な塩分・水分を排泄することで血圧を下げる利尿薬についてです。「サイアザイド系利尿薬」と呼ばれる薬が最もポピュラーに用いられます。院内採用薬ですとフルイトランがあります。また、ARBとサイアザイド系利尿薬の合剤もあり、院内採用薬ですとエカードHD、ミコンビBPなどがあります。特に足のむくみがあるような、体に余分な塩分・水分がたまっていると思われる患者さんに効果的です。ただ、あまりに利尿作用を効かせすぎると、脱水・腎機能低下などのリスクもあり、特に夏場や高齢患者さんにおける使用では注意が必要です。
他に、「ループ利尿薬」という種類の、主に心不全合併例などで使われる利尿薬もあります。院内採用薬ですとラシックスがあります。
なお、先ほど紹介した「ARNI」も、「ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれる利尿作用のあるホルモンの作用を通じ血圧を下げる利尿薬としての側面があるのですが、こちらは患者さんの体の水分量に応じた利尿となるため、脱水のリスクは少ないです。体の余分な水分が多ければ利尿作用を通じて排泄しようとするが、余分な水分が少なければ利尿作用もストップする、という仕組みです。
次に、「MR拮抗薬」と呼ばれる種類の薬です。アルドステロンという血圧を上げるホルモンが結合する場所を邪魔することにより血圧を下げます。ACE阻害薬・ARBの時と同様、腎機能やカリウムの数値に変動が生じることがあり、適宜確認が必要なケースがあります。院内採用薬ですとスピロノラクトン、セララ、ミネブロがあります。スピロノラクトンは安価なのですが、男性ホルモンが結合する場所も邪魔してしまうため、乳房が女性のように膨らんでしまうという男性にとっては困った副作用が出現することがあります。また、ケレンディアという「慢性腎臓病を合併する2型糖尿病患者さん」へのみ使用可能なMR拮抗薬もありますが、血圧降下作用は弱く、糖尿病によって腎臓がダメージを受けるのを防いでいくという作用がメインです。
α遮断薬は院内採用薬ですとカルデナリン、β遮断薬は院内採用薬ですとメインテート、テノーミン、アーチストなどがあります。β遮断薬は不整脈、心不全、心筋梗塞後の治療薬としても用いられます。
以上、様々な降圧薬を紹介してきましたが、基本的には最初3つのカルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)、ACE阻害薬・ARB、サイアザイド系利尿薬をメインで用います。
合併している病気によっては、「この降圧薬を優先して使った方が良い」という決まりもあるのですが、まずはそういった制約がない場合はどのような順序で薬を用いればよいのかという表を提示します。
高血圧治療ガイドライン2019 より
まずはカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬またはARB、サイアザイド系利尿薬のどれかを使用(STEP1)し、不十分であればどれか2つの組み合わせ(STEP2)、それでも不十分であれば3つの組み合わせ(STEP3)、なおそれでも不十分であればMR拮抗薬、α・β遮断薬などを足したり、高血圧専門医に紹介、という流れとなっています。
次に、私が専門とする糖尿病を合併する場合について提示します。
概ね先ほどの表と似ていますが、微量アルブミン尿・蛋白尿が見られる場合、腎臓の保護を期待してACE阻害薬・ARBの優先順位が上がります。それでも不十分であれば、カルシウム拮抗薬・サイアザイド系利尿薬を組み合わせて使用する、という点は共通です。