大腸内視鏡検査における精度管理 〜その4 内視鏡挿入法と大腸ポリープ発見率の関連〜

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大腸内視鏡検査における精度管理 〜その4 内視鏡挿入法と大腸ポリープ発見率の関連〜

皆さまこんにちは、小金井つるかめクリニック院長の石橋です。

 

前回のブログで「大腸内視鏡挿入法」についてご説明しました。今回は一歩進めて、大腸内視鏡挿入法の違いがどのように検査の質に関連するかをご説明していきたいと思います。

 

なお、本ブログのコンセプトは「最新の医療ネタを分かりやすく解説する」ためのものですが、専門用語が数多く含まれます。医療関係者の方でなくとも理解できるように努めてはいますが、用語が多少難解であったり、そもそも扱うテーマが非常にマニアックです。この点をご容赦いただけますと幸いです。

 

軸保持短縮法とループ形成法

前回ご説明しましたが、大腸内視鏡挿入法は大きく分けて「軸保持短縮法」と「ループ形成法」に分けられます。方法の詳細については前回のブログをご参照ください。

 

軸保持短縮法は検査医師の観点では挿入法としての習得に鍛錬が必要ではありますが、検査を受けられる患者さんや受診者さん側からすると、「疼痛が少ない」という大きなメリットがあります。

 

今回は、それ以外の利点について詳しくご説明したいと思います。

 

挿入にかかる時間

当院の20184月から20193月までのデータをもとに、具体的な数値をお示ししたいと思います。検査医師は内視鏡経験年数10年以上の私(Trainer)と、10年未満の医師(Trainee)です。TrainerTraineeに分けて、挿入時間と抜去時間を解析したもので、軸の単位は分です。また、このデータは全て、ポリープ切除を行わなかった場合のデータですから、「抜去時間=観察時間」となります。

 

挿入にかかる時間

上の図で、青いバーに注目してください。青いバーは挿入時間を表します。

 

軸保持短縮に比べてループ形成法は、TrainerTraineeともに時間がかかっていることがわかります。軸保持短縮法で挿入できた場合、挿入時間はTrainer3.7分、Trainee4.6分とそれほど大差はありません。一方で、ループ形成法の場合は、Trainer8.5分、Trainee14.3分かかっています。

 

当院では基本原則として、全ての患者さん・受診者さんに対してまずは軸保持短縮法での挿入を試み、それがうまくいかない場合はループ形成法への移行となります。よって、ループ形成法での挿入が軸保持短縮法の倍程度かかってしまうのは必然とも言えます。

(病院やクリニックによっては、最初からループ形成法での挿入をモットーとする施設もありますので、そういった施設においては全く違うデータになるはずです。)

 

しかしながら、Traineeの場合には、ループ形成法に移行すると軸保持短縮法の場合の3倍程度時間がかかっています。つまり、「軸保持短縮法で挿入ができないケース=挿入困難なケース」という構図になっていると言えます。

 

検査医師のスキルアップという点では、軸保持短縮法で出来る限り挿入できるようにトレーニングを積むことが、挿入困難なケースを減らし、最終的には全体での挿入時間の短縮につながると考えます。

 

また、患者さんや受診者さんの目線から言えば、検査時間は短いにこしたことはなく、検査医師のこういったスキルアップは施設としての責任とも言えます。

 

内視鏡挿入法の違いが抜去時間に与える影響

次に、抜去時間についても先ほどの図を用いて考えてみたいと思います。

 

図をみての通り、TrainerTraineeともに、挿入法の違いで抜去時間に大きな差はありません。

 

以前のブログで「抜去時間が大腸ポリープ同定率に影響を与える」ということを強調しましたが、当院では適切な抜去時間を厳守するよう指導していますので、どんなに挿入が困難になってもきちんと観察することは徹底できています。

 

軸保持短縮法は大腸ポリープ同定率を改善する可能性がある

理屈上は抜去時間が一定であれば、大腸ポリープの同定率も一定のように思えますが、挿入法の違いによって本当にポリープ同定率に差はないのでしょうか?

 

1年間に行なった大腸内視鏡検査全てを対象に、軸保持短縮法とループ形成法に分けて、大腸ポリープの同定率を比較したものが下の表です。

 

軸保持短縮法は大腸ポリープ同定率を改善する可能性がある

ポリープ同定率(PDRPolyp Detection Rate)は、大腸腺腫のほか、過形成性ポリープなど全てのポリープを含めた概念です。

 

PDRもADRも、いずれにおいても軸保持短縮法の方がループ形成法よりも良い成績であることがわかりました(ここでいうP値とは、統計学的に検定を行なった結果、偶然ではなく有意差があったということを証明する値のことです)。

 

抜去時間が変わらないのに挿入法の違いでポリープの同定率に差が出てしまうということが当院のデータから分かりました。

 

これまでに、挿入時間がかかるとADRが低下する、という報告(参照1)もある一方で、挿入に時間がかかっても抜去時間が十分であればADRは低下しないという報告(参照2)もあり、「挿入時間と抜去時間」という観点では関連性について議論がありました。

 

参照1: von Renteln D et al. Prolonged cecal insertion time is associated with decreased adenoma detection. Gastrointest Endosc. 2017 Mar;85(3):574-580.

参照2: Fritz CDL et al. Prolonged Cecal Insertion Time Is Not Associated with Decreased Adenoma Detection When a Longer Withdrawal Time Is Achieved. Dig Dis Sci. 2018 Nov;63(11):3120-3125.

 

今回の当院のデータは、「挿入時間と抜去時間」ではなく「挿入方法と抜去時間」として解析をすると、関連があることを示唆します。ただし、当院のデータはあくまで少数の医師による少数の検査を対象とした検討であり、結論を出すためには今後より大規模な検討が望まれます。

 

さて、次回は検査の精度管理という視点で、大腸内視鏡検査の前処置法について解説したいと思います。

 

内視鏡センターのページはこちらです。

まとめ

  • * 軸保持短縮法で挿入可能な場合には、挿入にかかる時間も短い。
  • * 軸保持短縮法で挿入できると、大腸ポリープの発見率を向上できる可能性がある。

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