2026年9月7日
内視鏡センター 川上 智寛
~エトラシモド(ベルスピティ錠®)とオザニモド(ゼポジアカプセル®)について~
小金井つるかめクリニックの川上智寛です。
今回はエトラシモドとオザニモドについてお話します。
エトラシモドとオザニモドは、S1P受容体調節薬という新しい作用機序の潰瘍性大腸炎のお薬です。
それぞれ発売されてから1年が経過したため、長期処方も可能となりました。
S1P(スフィンゴシン1-リン酸)は、細胞膜の脂質から作られる生理活性脂質で、体の中で「情報伝達物質」として働いています。
5種類の受容体(S1P1〜S1P5)に結合して作用し、免疫・血管・神経など、さまざまな機能を調節しています。特に免疫系ではリンパ球の移動や血管の透過性や血管新生をコントロールしています。リンパ球はリンパ節から血液中に出ていき、血液に乗って全身をめぐり、炎症が起きている場所に集まることで免疫反応を起こします。リンパ球は主にS1P1受容体を使って、S1Pの濃度差を感知し、リンパ節などの末梢リンパ器官➡血液中へ移動します。またS1P1受容体を介してT細胞のヘルパーT細胞への分化を促進したり、IL-17産生ヘルパーT細胞の分化や移動に関与することが知られています。


S1P1の信号を薬で調節すると…リンパ球がリンパ節から出にくくなって、血液中のリンパ球が減ります。また炎症に関与するT細胞の分化や移動を阻害します。そのため、炎症部位に集まるリンパ球が減って、結果として炎症が落ち着くと考えられています。
S1Pの受容体は5種類のサブタイプがあり、それぞれ発現している場所や役割が少しずつ違います。エトラシモド、オザニモドどちらもS1P受容体に作用しますが、ターゲットが少し異なります。エトラシモドはS1P1・S1P4・S1P5に選択的であり、オザニモドはS1P1・S1P5に選択的(S1P4への作用はなし)です。S1P4に対する作用があるかないかでS1P4を介した免疫調節が関与している可能性もありますが、現時点で不明です。今後のデータの蓄積が待たれるところです。

ベルスピティ錠(一般名:エトラスモド)
ゼポジアカプセル(一般名:オザニモド)
両方とも、中等症〜重症の潰瘍性大腸炎に対して従来の治療で十分な効果が得られなかった場合に使う薬で、寛解導入・寛解維持で使うことができるので、この薬が効いてよくなったら、そのまま継続して使用できる薬です。いずれも経口薬です。
S1P受容体調節薬は上記のような注意点があります。
投与前に心電図、肝機能検査、必要に応じて眼科受診が必要です。
投与中も定期的なチェックを必要とします。
循環器科と眼科との連携が重要です!
ゼポジアのスターターパックの期間以降で比較すると…。
ベルスピティ錠2mg:1錠 4,792.80円
ゼポジアカプセル0.92mg:1カプセル 4,784.60円
2026年7月現在
2種類の薬剤に、薬価差はほぼありません。1か月分の薬価は約14万円になります。
やはり高額薬剤に該当します。厚生労働省が指定する「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」の研究班が毎年改定している、潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針への記載でも「(5ASA不耐やNUDT15遺伝子多型(Cys/Cys)など維持療法の選択肢が限られる場合を除いて)医療経済の観点から難治例に対して使用されるべきである」とコメントされています。基本的にAdvanced Therapyのうちの1つとして難治例の治療に対して使用することが大前提になります。

添付文書の「効能または効果に関連する注意」の項目について
| ベルスピティ® | 過去の治療において、他の薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬等)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与すること。 |
| ゼポジア® | 過去の治療において、他の薬物療法(5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド等)で適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に本剤を投与すること。 |
ベルスピティ®の方が他の薬物療法で具体的に記載がある種類が多くなっています。
文言通りに受け取った場合、「ベルスピティ®の方がたくさんの種類の薬を使ってどうしても効果がない場合に検討するべき薬剤」と考えなければならないように思いますが、S1P受容体をターゲットとした同じカテゴリーの薬であるため、実際の使い分けは両薬剤間の他の差異を含めて総合的に判断されるべきだと考えます。
どちらも1日1回の内服です。
| ベルスピティ® | 最初からずっと2mgを1日1回で服用する。 |
| ゼポジア® | 飲み始めは漸減投与する(少しずつ増やす)必要があります。 1〜4日目:0.23mg 5〜7日目:0.46mg 8日目以降:0.92mg(通常量) スターターパックが用意されており、最初の1週間分がセットになっています。「何日目に何mgを飲むか」がわかりやすいよう工夫されています。 ※漸減投与は心拍数低下など心臓への影響を和らげるために行われており、低用量から段階的に増やした方が心拍数低下が軽く済んだという結果がでているため、このような内服方法になっています。 |
「開始時からシンプルな内服方法であるベルスピティ®」「最初の1週間は少し複雑な内服方法ですが、心拍数低下に配慮されたゼポジア®」といった感じです。
どちらも肝臓で代謝される薬であるため、肝機能障害を引き起こす可能性があります。
そのため、定期的な採血で肝機能の評価をする必要があります。
| ベルスピティ® | 肝機能障害は「慎重投与」になっているが、禁忌にはなっておらず、減量(隔日投与など)の細かい設定はない。 |
| ゼポジア® | 禁忌:重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C) 臨床試験でも重度の肝障害の方は除外されており、安全性・有効性の確認ができていない。血中濃度が上昇する恐れがあり、副作用のリスクが高くなる。 軽度~中等度の肝機能障害がある場合(Child-Pugh分類A、B) 投与しない方が望ましいとされつつも、やむを得ず投与が必要な場合は「減量(隔日投与)」が必要と記載されている。 スターターパック終了後、通常は0.92mgを毎日服用するが、肝機能障害がある場合は0.92mgを48時間ごと(1日おき)に服用。 ※軽度〜中等度の肝機能障害の方では、薬の血中濃度(AUC)が正常な方の1.4〜2.3倍に上がることがわかっており、その「暴露量」を抑えるために半分の頻度(隔日投与)に設定されている。 |
肝機能障害がある方については「ゼポジアよりベルスピティの方が選択しやすい」です。
どちらの薬も、胎児への影響が懸念されるため、妊娠中は使用できません。
また、投与中は確実な避妊が必要です。
| ベルスピティ® | 投与中および最終投与後7日間は避妊が必要 → 妊娠が判明した場合は、すぐに中止 |
| ゼポジア® | 投与中および最終投与後3か月間は避妊が必要 → 妊娠が判明した場合は、すぐに中止 |
投与終了後にどれくらいの期間、薬の影響が残るかという点において大きな違いがあります。ゼポジア®の方が体内から薬が抜けるまでの期間が長く、投与終了後の避妊期間を長く持たないといけません。すぐに妊娠を希望されている方はそもそもS1P受容体調節薬を選択肢としてしにくいですが、将来的に妊娠計画がある方にとって、この点は薬選びの重要なポイントになります。
どちらの薬も生ワクチンは禁忌になります。
| ベルスピティ® | 投与開始:生ワクチンは開始4週間以上前に接種 投与中:接種不可 投与終了後:最低2週間は生ワクチンを避ける |
| ゼポジア® | 投与開始:生ワクチンは開始4週間以上前に接種 投与中:接種不可 投与終了後:最低3か月は生ワクチンを避ける |
※投与終了後の制限期間がゼポジアの方が長いことを念頭に置く必要があります。
ベルスピティ®、ゼポジア®の2剤はどちらも中等症~重症の潰瘍性大腸炎に対して、既存治療で効果不十分な場合に使用される、今までの作用機序と異なる新しい経口治療薬です。どちらの薬も潰瘍性大腸炎に対して有効性が示されていますが、直接比較した大規模な試験は実施されていないため、どちらの薬がより優れているとは言えません。ブログに記載したように二つの薬に違いがある点を考慮して、今後のライフプラン(妊娠・仕事・渡航など)を踏まえて適切な薬剤選択ができたらよいと思います。
小金井つるかめクリニック
内視鏡センター 川上 智寛
(公開日:2026年9月7日)
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