小金井つるかめクリニックの消化器内科 川上智寛です。
今回は新しいバイオマーカーについてお伝えします。
目的 |
潰瘍性大腸炎の病態把握補助 |
検体 |
尿 |
検査方法 |
CLEIA法 |
算定点数 |
187点 |
算定回数 |
3か月に1回を限度 |
留意事項
潰瘍性大腸炎の病態把握を目的としてカルプロテクチン(糞便)、ロイシンリッチα2グリコプロテイン(血液)、大腸内視鏡検査を同一月中にあわせて行った場合は主たるもののみを算定する。
Prostaglandin E-major urinary metabolite (PGE-MUM)
プロスタグランジンE2(PGE2)体内で炎症や免疫応答を調節する生理活性脂質であり、PGE-MUMはPGE2の安定な代謝産物です。PGE-MUMは腸管粘膜のPGE2濃度と相関するため、PGE-MUMの高値は炎症部位のPGE2産生量の上昇と同義になります。
PGE2はIL-23と協調してIL-17産生ヘルパーT細胞(Th17細胞)の増殖に働き、インターロイキン17(IL-17)を産生し、好中球の活性化などで更なる炎症を引き起こします。
炎症部位でPGE2の産生量が増えていれば、PGE-MUMは高値となるため、PGE-MUMを測定することで潰瘍性大腸炎の活動性を評価することができます。採血で測定される「CRP」よりも内視鏡検査組織検査の結果と一致するといわれています。
以前、「炎症性腸疾患のバイオマーカー」のブログで解説した他のバイオマーカーがあります。
CRP(C-reactive protein)、血沈(ESR: erythrocyte sedimentation rate)、LRG(Leucin rich α2-glycoprotein)は採血検査で実施するマーカーです。便中カルプロテクチン、便潜血反応は便を検体にしたマーカーです。採血は針を刺す行為があるため、痛みを伴います。便を採取するものは便器にシートを広げて排便したのち採取する必要があり、やっぱり面倒なことこの上ない検査です。有形や軟便ならなんとか採取できても水様便の場合、採取が困難なことが多いでしょう。
その点、PGE-MUMは尿検査なので便を採取するような煩わしさはありませんし、採血のように痛みもありません。侵襲がなく、簡便な尿による検査は負担が少なくてよいですね。非常に使いやすいマーカーであると思います。
現在、IBD領域の学会や研究会等で「サイトカインプロファイル」というワードが盛んに使われています。
サイトカインは免疫系の細胞が情報を伝達するためのもので、炎症や免疫の反応の調節に関与しています。サイトカインプロファイルとは、どういったサイトカインがどのくらいの量で存在するか分析・特定することを指します。サイトカインプロファイルを解析することで病態解明や治療法に役立てることができます。
炎症性腸疾患では本来制御されているはずのサイトカインのバランスが崩れ、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-12、IL-17などのサイトカインが過剰産生され、免疫細胞を活性化し、炎症を引き起こしますとされています。通常、クローン病(CD)ではTh1が優位な人やTh17が優位な人が多いといわれており、潰瘍性大腸炎(UC)ではTh1、Th2、Th17が関与し、人によって病期によって、また治療によって関与する優位なサイトカインプロファイルが異なるとされ、CDよりもUCは複雑で多様なサイトカインプロファイルだといわれています。
現時点でIBD患者さんのサイトカインプロファイルを正確に把握する検査はなく、使用してきた薬剤の反応性や病理組織などから類推するしかありません。
生物学的製剤や低分子化合物などIBD領域で使用可能な薬剤が近年多く発売されており、治療薬の種類が増えるということは寛解にできる可能性が広がることにつながりますが、選択するにあたっては迷いにつながります。サイトカインプロファイルが把握でき、最も効果的な薬剤選択ができれば、まわり道せず症状をよくできるのにと常日頃思っていますが、そう簡単ではなさそうです。
浜松医科大学の杉本 健 先生のご講演や著書で「PGE-MUM高値がTh17優位な症例」の可能性があるとおっしゃっていました。PGE-MUMが保険適応の検査になったことで、これからデータによる検証が進むでしょう。サイトカインプロファイルを予測できる検査という位置づけになると薬剤選択がしやすくなりますが。今後に期待しています。
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まとめ
*PGE-MUMの測定が潰瘍性大腸炎の病態把握の補助に対して保険適応になった。
*PGE-MUMは侵襲が少なく、簡便なことがメリット。
*IBDにおいてサイトカインプロファイルを把握することができれば、より効果的な薬剤選択が可能になる。PGE-MUMの測定がサイトカインプロファイルを予測する一助になる可能性がある。今後の研究やデータ蓄積に期待している。